「君、どこの子。名前は?」
 ザアザアと人の行き交うざわめきが、背後に流れている。太鼓の音と毎年変わらない祭りの曲が、隅に置かれたラジカセから流れ続けていた。見上げた少女の黒目に、誰かの離した風船が一つ。浮かんで消える、この町の子ではなさそうだ。
「金魚すくい」
 彼女がやがて、僕の目を見たままそう言った。は、と聞き返す間もなく、白い脹ら脛の晒された短い浴衣が翻る。炭酸水が、彼女の手の中で弾けた。小さな屋台には不釣り合いな、びいどろのグラスを揺らして微笑む。
「楽しんで」
 見ればその手足の先は、浅い水の底のように煌めいていた。鉛色と朱を混ぜた提灯の灯りが、ゆらゆらと透ける。
 ふいに彼女がそのグラスを宙へ放り、炭酸水が夜空に舞った。誰かの声が聞こえている。気づけば僕は、水槽の前にいた。ああ、無数にちらつく朱が、幻によく似ている。



真夏の夜が見た夢






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