「おめでとう」と誰に言うでもなく呟いた瞬間、その言葉が妙にその場へ生まれてしまったような、そんな気がした。僕の吐いた意味などなかったはずのそれは空気中を漂い、さあ宛先を、と言わんばかりに僕が次に何か言うのを待っている。
 どうしたものか。僕はこの「おめでとう」を、誰に捧げることにしたらいいだろう。
 そんなときだ。僕がそこに、13月の存在を見つけたのは。13月はまだ何者でもなく、そこにいた。お前は13月か、と僕が聞いたとき、それは13月となったようだ。宙に浮かんでいた「おめでとう」の言葉を、僕は掴んだ。
 何者に宛てるでもない言葉を宛てるために、何者でもないものが僕には必要だ。まだ何も確かなものを持っておらず、いいえ、その言葉はわたくしのものではありません、と言わない何かが。1月から12月は言うだろう、いいえ、今はわたくしの誕生日ではありませんと。春も夏も秋も冬も、皆言うだろう。だが、きみはどうだ。
「13月よ、このおめでとうを、君のものにしてやってくれないか。どうにも行き場が必要だ。僕と、僕のおめでとうには君が要る」
 13月がガラガラと、笑った気がした。




13月のバースデイ





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