第二章


「やあ、こんにちは」
「……こんにちは、レトー先生」
 翌日、少し時間をずらしたつもりだったのだが、また同じ顔に出くわした。昨日より深いオリーブのローブを着た彼を見上げ、挨拶をして通り過ぎようとする。
「勉強熱心ですね、エレンさん」
「いえ、そんなことは」
「謙虚な姿勢も大切ですが、事実は事実ですよ」
呼び止められる予感というのは、何となくあった。驚きはしないが、心の中でため息をつく。話すことが嫌いなのではないが、今は時間が惜しい。寮へ持ち帰れない本は、休み時間を駆使して読むほかないのだ。
「どうもありがとうございます」
本当は否定をしたかった。事実だというならば、尚更だ。昨日、私が向かった棚を見ていなかったとは思えない。ならば知っているだろうに。私の読んでいるものが、学院の勉強とは何の関係もないようなものだということくらい。それとも、分かった上での遠回りな忠告だろうか。変なものに現を抜かしていないで、実質的な勉強をすべきだと。そこまで考えてから、いやそれは少しひねくれすぎた解釈だと落ち着き、軽くお辞儀をして奥へ向かう。
「……昨日」
「はい?」
「あなたの入学書類を、一通り読ませていただきました」


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