終章


 がさりと、腕に抱えた資料の束が音を立てる。それを近くにあった本と一緒に紙袋へ入れ、とんとんと机の上で軽く整えた。そこへさらに机の端から、月光草の入った袋とチョークの缶を掴んできて押し込む。いっぱいになった紙袋の中身を再度確認して、私は後ろで別の資料をまとめている彼のほうへ振り返った。
「レトー先生、終わりました」
「ああ、どうもありがとうございます。こちらも、あとこれだけ」
少し待っていてくださいね、と。ぱん、と手を叩いてファイルを整列させながら、彼はその中の何冊かを選んで手元の篭に入れる。もう一度叩くとファイルは一斉に本棚へと帰っていって、勢いよく飛び込みすぎて上の棚に積み上げられた書物を数冊崩した。しかしそれらはすぐにのそりと起き上がって、またそれぞれの位置へと戻ってゆく。
「よし、行きましょうか」
「はい」
私は彼がそれを見届けて篭を手に取ったのを見届けて、そうして最後に電気を消して、所狭しと資料の積まれた準備室を出た。教室のものに比べて若干薄い造りの、木目の鮮やかなドアの鍵をかける音が響く。
「すっかり助手が板につきましたね」
遠くまで真っ直ぐに伸びる明るい廊下に出て歩き出すなり、彼は面白いものでも見ているように笑ってそう言った。言われて思わず、右手の膨れた紙袋と左手の出席表を交互に見やる。まあ、何と言うか。
「板も何も、荷物持ちですからね」
「それだけでもないですよ」
「ほぼそれしかやった憶えがありません」
隣を歩く彼は、そうでしたっけ、と呟いて窓の向こうで揺れる木々を眺めながら首を傾げた。そうでしょうと答えながら、私も同じ方向を見る。濃い緑の葉が、重なり合って揺れていた。その間を、眩しい光が流れるように通り抜けていく。魔法学の講義は、今日も荷物が多い。


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