第七章
その日の放課後、私はいつもの通りに図書館へ向かった。午後の授業は昼休みの出来事が頭を埋め尽くしてあまり身が入らなかったが、それもそうだと割り切ってよく考え、散らかった思考を整理する時間に当てた。そして。
「こんにちは……、レトー先生」
「こんにちは。今日も早いですね」
結論としては、今後についてひとつの決断をした。何事もなかったかのようにいつもと変わらない態度を取る彼を見て、私も軽い微笑みを作る。けれどその奥では、内心言葉にできないような緊張に苛まれてもいた。自分の出した決断が、間違いだとは思わない。けれど、どんな展開になるかはまったく想像がついていない。
「今日の昼休みは、来られなくてすみません。急な呼び出しがあったもので」
「お忙しかったんでしょう。約束をさせてもらっていたわけでもありませんから、気にしないでください」
そんな私の内心を知ることもなく、彼は昼休みのことを切り出した。急な呼び出し、という言葉に蘇るものがあって、ダリアン教授からでしょうと言いたくなるのをぐっと堪える。それを言ってはだめだ。私の決断が、一気に説得力を欠いてしまう。態度を崩さないように繕いながら構わないと伝えれば、彼はまだ申し訳なさそうにしながらも、どうもと言って話を切り替えた。
「では、どうします、さっそく始めますか?お昼はどの辺りまで進めましたか」
「あ、ええと……」
「?」
「私、今日のお昼は何もやっていないんです。クラスメートに誘われて、カフェテラスに行っていました」
「……え?」
“レヴァス”に関しては適当に頁を開いてやりましたと言ってもごまかすことが難しそうだと、できる限り流暢に当たり障りのない嘘をつく。心底意外そうな顔をした彼に、にこりと笑って言った。
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