第一章


 カランカランと終業を告げるベルが鳴り響く。礼、の声に合わせて深く頭を下げ、私はまだ新しさの残る辞典を閉じた。
「エレン」
同じくまだ表紙の滑らかな教科書を閉じて重ね、鞄に押し込む。聞きなれた声に呼ばれて顔を上げ、軽く笑った。
「お疲れ」
「お疲れ。あのさ、次の時間、空いてるでしょ?」
「うん。何?」
「カフェテラス、行かない?みんなで行こうって話になってね」
クラスメートの少女はそう言うなり、教室の後ろを指して微笑む。そこにはこちらを向いた数人の顔馴染みがいて、目が合うと少し首を傾げた。行かないか、と問う空気にしばし考える素振りを見せて、けれどもやがて首を振る。
「ごめん。私、図書館に行かなきゃ」
「また?そっか、残念」
「うん。ごめんね、また今度」
鞄を肩にかけて断り、向こうにいた数人にも見えるように手を合わせる。分かった、というように頷き返してくれたのを見て、ペンケースをしまい、席を空けた。
「真面目だよね。エレンって」
「そんなことないよ」
「ええ?それだけ勉強しておいて、よく言う」
「本当だって」
感心半分、呆れ半分といったところか。ばいばい、と手を振ればかけられた言葉に、思わず反論してしまった。勤勉に思われるのが嫌なわけではない。ただ、そうではなくて。
「勉強っていっても、真面目って呼べるとは限らないでしょう」
「え?」
「またね。行ってきます」
本心から、そんなものではないと思った。


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