第五章


 あれから数日経った今日は細かい雨が降っていて、元より人の出入りの少ない図書館はいつも以上に静けさを増していた。さらさらと走るペンの音だけが、薄暗いテーブルの上で連なっていく。
「……で、これはつまり先ほどの頁にあった魔法具のことです。あの陣を完成させるために術者の力を補うものとして開発されました」
「これによって、誰でも自分の魔力を封じることができるようになって……あ、それで刑罰にも使われるように?」
「ええ、その通りです。それ以前はかなり素質の高い魔法使いにしか扱えない魔法でした。もっとも、使う必要が出るのは魔法開発に関わるような人間ばかりでしたから、皆扱えたのでしょうけれどね」
「へえ……」
私は相変わらず、昼休みを図書館で過ごしていた。彼も同じだ。私たちは授業の終わりと同時にここへ向かい、同じテーブルの同じ席で、同じ本を広げる。
「ですから、このあと……どうしました?」
「え?……あ、すみません。続けてください」
あの日の会話など、なかったかのようだ。あれが確かに交わされたものだったと私に確信を持たせ続けるものは、あのときポケットに捻じ込んだ三つの飴玉。今は鞄の底で息を潜めている、それだけしかない。最も変わると想像していた彼の態度は、まるで水の流れのようにそのままだ。私のほうがずっと、平静を装いながらもそれに動揺し続けている。


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