第四章


 翌日も、図書館は心地のいい風に恵まれていた。開け放した窓の枠を越えて時折室内に入ってくる緑の枝に、まるで木陰にいるかのような涼しい空気が運ばれてくる。だが。
「あの、レトー先生」
「はい?」
「……食べにくいんですが。私、そんなに変な顔でもしていますか」
こういう状況を、何と言うのだったか。確か、ガン見。クラスのお喋りな女の子が言っていた。あいつあの子のこと、いつもガン見してるよね、だとか。覚える気のないままに覚えてしまった単語が、まさかこんな場面で役に立つとは思いもしなかったが。
「え!あ、すみません……」
「いえ、別にそれほど……何かついてますか?自分では分からないんですけど」
「ああいや、そういうわけではなくて」
居た堪れない。別に嫌だとか辛いとかそういうわけではないのだが、本を閉じて食事を始めてからやけに視線を感じる。そう言えば、彼は私以上に今初めて気づいたと言いたげな顔をするのだから何だというのだ。意識的に見られていたとは思っていないが、無意識に見られるのもこちらとしては内心困惑する。
「すみません、その」
「?」
「……あなたが、食べ物らしい食べ物を口にしているのを初めて見たもので」
理由は一言で理解できた。食事、するんですね。当たり前ですとしか返しようのない言葉に、もう少し目上の人向きに答えるにはなんと言ったらいいだろうと考えたが考えつかない。仕方なくそのまま、当たり前ですと答えたらそうですよねと返された。そうですよ、としか言いようがない。困ったので、ええと、で言葉を繋ぐ。


- 19 -


[*前] | [次#]
栞を挟む

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -