第二幕


 「レイシー、遅いわ。もっと集中して」
 仮住まいの小屋に、暖かな白い日差しが降り積もる。タン、と床を叩く踵の音が姉妹達とずれたのを、母は見逃さなかったようだ。
「姉さん、珍しいわね。何かあった?」
「……」
「怪我でもしているの?……違うなら、いいのだけれど」
末の妹が囀ずるように隣へ来て、首を傾げた。違うと首を横に振って答えれば、安心したように微笑んで戻っていく。柔らかな金の巻き毛が、ふわりと揺れた。
「はい、今のところからいきましょう。今夜は王宮の近くを借りているのだからね、練習はしっかりするわよ。レイシー、立ち位置へ戻って」
母はパン、と軽く手を叩いてそう言った。頷いて、私は少しずれた髪飾りを直しながら、数歩場所を調整する。姉妹達に囲まれた、渡り鳥の中心。私がここで舞えるのは、この黒髪のお陰だ。姉妹の中で唯一、金の髪を持たない。皆が言うにはだからこそ、この髪飾りが妖艶に映えるのだという。だから私は、歌わずとも許されてここにいられる。この声がカラスのようだと比喩される原因になろうとも、私はこの髪を疎ましく思ったことはない。
「アン、ドゥ」
手拍子に合わせてくるりと回れば、一拍遅れて翻る髪と、色とりどりの。一番端で揺れるライム色をちらりと横目に眺め、私は昨日のことを思い出していた。結局お礼を言えず仕舞いだ。あの人は、どこの誰だったのだろう。


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