第四幕


「差別、って……」
『私だけ、他の姉妹達と違うでしょう。髪の色も』
「それはそうかもしれないけれど、でも別に」
『それに、本当は』
「?」
『声も、全然違うの』
一気にそこまでを書ききって、私は彼のほうを振り返った。文字に注がれていた視線が、ゆっくりと私自身へ向く。アンティークのようだ。こんなときでも変わらず底に沈めた穏やかさを失わない眼差しに、一時の勢いに任せてこんなことを明かした自分が一層幼く思えて、肺が痛んだ。若草色のショールをきつく握り締める。それでも彼から目を逸らさなかったのは、彼がここで私の話を重いと一蹴するような人ではないと分かりかけていたからか、それともそうであってほしいと希望を賭けたのか。分からないがどちらにしろ、私は自分でも追いつけないような速度で、彼に心を注ぎ込んでいた。
「……声は、僕はまだほんの一瞬しか聞いたことがないから、分からないけれど」
「……」
「でも、少なくともその髪に関しては自信を持って言える」
「?」
「君の髪は僕にとって君の汚点じゃないし、ましてや蔑むようなものでもない。特別って、良いものだと思うけれどね。あれだけいる姉妹の中で一人だけ、なんて、貴重じゃないか」
「……!」
「違うかい?」
不意に問いかけられて、思わず視線を逸らす。格好つけすぎかな、と小さく声を上げて笑った彼は、日溜まりに温められた私の髪を楽しそうに撫でた。昨日ここのベンチまで私を連れてきたその手は、今日は私の髪に触れている。さらりと、その指の隙間を私の黒髪が流れ落ちていく光景はとても新鮮だった。カラスと、そう笑われることを気にするようになってから、姉妹達は私の髪についての話題を避けるようになった。私も自然と避けるようになり、結果、こうして自分以外の人間に髪を触られるのはずいぶんと久しぶりだ。神経など通っていないはずの一本一本にまでその体温が伝わる気がして、どうしようもなく感情任せに泣きたい衝動に駆られる。私は、この髪を疎ましく思ったことこそなかったが、誰かにこうして慈しむように扱ってもらえる日が来るとは、到底思ってもいなかった。
「君は眸も黒なんだね。この辺りでは珍しいな」
『そうね、私もあまり見かけない。貴方は』
「?」
『砂糖漬けのライムの色。アンティークみたいとも思ったけれど』
「……けれど?」
『けれど、何だろう。よく分からないから秘密』
「はは、何それ」
離れていく温かい手も、日溜まりの中で見るとより深くまで透ける眸も、すべてが私を動かす鍵になる。彼は、不思議な人だ。少しずつ、確実に歩み寄っていくことを怖いと思えない。昨日の自分がここへ座るのを躊躇ったことなど、今では信じられないくらいだ。笑い合って傍で揺れた空気に染みつくライムの香りを吸い込みながら、私は思う。きっともう、明かしていないのはこの声くらいなのではないかと。それさえも、たった今笑みに紛れて溢しそうになった。境界線が、柔らかな指で掻き消されていく。この感覚を、どこかで聞いた名前で呼ぶとしたら、きっと。


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