ライカラとミスパレの話
2013/05/14 21:18


「すみません、あの、ちょっと聞いてもいいかな」
「はい?」
「君、この辺りの人?」
「ええ、そうだけれど」
「この近くで、黒髪の女の子を見かけなかった? 腰の辺りまで長さがあって、背が君くらいで、オレンジ色のショールを巻いてるような……」
「黒髪? そうね、それくらい長かったら目を惹くと思うのだけど……見かけていないわ」
「そうか、どうしたものかな……ありがとう」
「連れの方? 見失ってしまったの?」
「一緒に来ていたんだけど、ちょっと別々に買い物へ出かけてね。この噴水前で四時に待ち合わせよう、って話だったんだけれど……」
「……そこそこ過ぎているわよね。ねえ、もしかしたら相手の方、噴水を間違えているのじゃない?」
「え?」
「この広場の少し西に、もう一つ噴水があるのよ。この街って似たような景色の道が多いから、もしかしたら」
「そうなんだ、知らなかったな。試しに行ってみることにするよ。その噴水へは、ここからだとどう行けばいい?」
「近いのだけれど、説明が難しくて。貴方さえ良ければ、案内しましょうか」
「え、でも君は?」
「私は帰るところだったの。急がないから、平気」
「そう? じゃあ、お願いしてもいいかな。ありがとう、助かるよ」
「どういたしまして。慣れているから気にしないで、この街、よく貴方みたいな人がいるの。迷子になったわけじゃないだけ、旅の人にしてはすごいわ」
「分かるんだ?」
「ええ、何となく。落ち着いているけれど、荷物と靴が行商人風だもの」
「さすが、人の行き来が多い街の人だね」
「ええ。エーリディカよ」
「そうか、僕はガラッド。エーリディカ、君もどこかで店を?」
「雑貨屋をやっているわ。さっきの大通りから近いから、滞在中、良かったらお連れの方と一緒に寄ってちょうだい」
「ぜひ行くよ。雑貨屋なら、レイシーも好きそうだし」
「レイシーさんって仰るのね」
「ああ、うん。多分、君とあまり歳は変わらないんじゃないかな。できたら気軽に接してやって」
「レイシー?」
「そんな感じ。彼女、あまり君みたいな社交的なタイプじゃないんだ。君が砕けて接してくれたほうが、きっと自然に話せると思う」
「ふうん……」
「何、どうかした?」
「いいえ? 本当に好きでいらっしゃるのねって、思っただけよ」
「僕にはそう言ってる君が、何だか嬉しそうに見えるけれど?」
「え?」
「誰か、思い出す人でもいたのかな。そんな顔に見えた」
「……レイシーは、貴方といて焦ることってないのかしら。見かけに合わず鋭いって言われない?」
「さあ、あんまり」
「目の色と服装以外は結構似ているけれど、あの人は貴方ほど推理屋ではないわね」
「へえ」
「あ、着いたわよ。そこ」
「ああ、本当だ。噴水ってこれか。……あ、レイシー!」
「……? あ、ガラッド」
「こっちにいたんだね」
「うん、だって」
「ごめん、噴水二つあったみたいなんだ。さっきまでもう一つのほうにいて……入れ違いにならなくて良かった」
「そうだったの? 全然知らなかった……探させてごめんなさい」
「いいよ、噴水とだけ提案したのは僕だ。ああ、彼女にお礼を言わないと」
「ええと……?」
「あ、エーリディカです。彼があなたを探しているところで、たまたま行きあって」
「軽装だったからこの街の人だと思って、君を見かけなかったか聞いてみたんだ。噴水が二カ所あるからもしかしたら、って、話を聞いて案内してくれたんだよ」
「そうだったの……ありがとうございます、エーリディカさん。お手数をおかけしてすみません」
「どういたしまして、大したことじゃあないわ。本当にここで見つかって良かった」
「レイシー、堅いよ。彼女、君と同じくらいに見えるけれど」
「だって、ガラッド」
「ふふ、どっちでも構わないけれどね。良かったらエリーって呼んでもらえると、そのほうが馴染みがあるわ」
「えっ」
「エリーは雑貨屋をやっているそうだよ。僕たちももうしばらくはここにいるんだし、女の子はそういうの好きだろう? 今度、遊びに行ってみよう」
「わ……、行きたい」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。よろしくね、レイシー」
「!」
「それじゃ、二人ともここから宿までは大丈夫?」
「うん、それは分かる。ありがとう、本当に助かったよ」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。お買い物、楽しんでね」

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「ただいま」
「おかえり、エリー。遅かったね」
「ええ、ふふ」
「え、何、何か面白いことでもあった?」
「ん、そうね。そういえばランドウのことも、噴水の前で道案内したわって思い出して」
「懐かしいこと言うね。誰か、迷ってる人でもいたかい?」
「ええ。少しだけ貴方に似ていて、知らん顔できなかったのよ。紅茶を淹れて話すわ、スコーン、出してくれる?」


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ライム売りとカラス、ミスターパレットは同じ世界線です。
太陽の街はライカラの舞台より少し離れた地域にありますが、レイシーが自由になったら、ガラッドは二年間くらい旅をしようって提案しそう。これまであまり自分の意思で動けなかったレイシーを連れて色んな国や町を回って、どこに住みたいか決めそうです。
太陽の街ではなくても、この四人はゆくゆくは近くに暮らして、交流があったらいいなぁ。エーリディカはレイシーとは親しく、ガラッドとは結構気が合いそうな感じ。ガラッドとランドウはいい情報交換の相手で、レイシーは最初こそランドウの奔放さや派手な見た目に戸惑うけど、エーリディカを介してそのうち仲良くなれそうかな。
ガラッドと打ち解けるエーリディカに束縛とは縁の薄いランドウが珍しく内心妬いたり、他人と口を利くのが未だにあまり得意じゃないけれど二人とは話したいと思って緊張するレイシーの肩を、ガラッドがさり気なくずっと抱いていたりすればいいと思います。




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