『この正しくない世界で』
時系列は現在よりちょっと先くらい。オズ視点。
――――――――――――



「隊長ー」

「なんだ」


今日もセルジュ隊長は愛想もへったくれもない仏頂面だ。

せっかく美人なのに。せっかく美人なのに。せっかく美人なのに。何回も何回も胸中で繰り返す。

だってもったいない。


「もうちょっとにこやかにしてよー」

「ふざけていないでさっさと書類を出せ。終わったのだろう?」


隊長は冷たい目つきで俺を睨んで、寄越せとばかりに手を差し出してくる。

俺はそれを見て、閃いたとばかりに声をあげる。


「笑ってくれたら書類渡すよ!」

「どうやら今すぐ剣の錆になりたいようだな」

「あ、冗談っす。はい」


すかさず放たれた言葉とまっすぐな殺気に、俺は即座に書類を隊長に渡す。

あー怖い怖い。なんで美人が怒るとあんなにおっかないのかなあ。


そのとき、コンコンと執務室の扉が叩かれる。


「医療部隊のパスカル・エルメスです! 先日の三番隊の定期検診の結果をお持ちしました!」


あ、隊長の弟くんだー。

と思ったのもつかぬま。


「入れ」


隊長にしてはずいぶん優しい声で入室を許可したので、俺はぎょっとして隣の席に座る隊長を見る。

隊長がブラコンとわかっていたけれど、やっぱりこの変化には慣れない。


扉が開かれた音が耳に届くが、そちらに目をやるより隊長の顔が笑顔を浮かべるのを目撃するほうを俺は優先した。


「こちらが定期検診の結果になります。なるべく早く隊員たちにお渡ししてください」

「了解した。ご苦労だったな」


俺は瞼を半分おとして、うわーと内心呆れながら隊長たちのやり取りを見る。


「それでは失礼します! セルジュ隊長、お仕事頑張ってくださいね!」


ニコニコと笑いながら隊長の弟くんは退室する。その途端、部屋の温度がスッと元に戻った気がした。


「隊長、露骨っすねー」

「なにがだ?」


隊長、自覚ないとかマジっすか。


「……やっぱり、弟くんしか隊長を笑顔にできないのかなあ」


ちょっとだけプライドが傷ついたけれど、気づかなかったフリをしよう。

いつか隊長が普段でも笑うときが来るのだろうか。


「来ない気がしてきた…」

「ごちゃごちゃなにかを言ってる暇があれば手を動かせ」

「あー、はいはい」


あーもう、このブラコン隊長め。口うるさい。まったくかわいくないんだから。


せっかく美人なのに。

もったいない。


END


拍手ありがとうございました!

TOP