「満は今日もかわいいね」
これは我が私立全寮制男子校・白戸学園の誇る生徒会の、張り付いた笑顔の美しい腹黒副会長の言葉。
「…満、そんなやつ、見ないで」
これは同じく生徒会の無口美形、書記の言葉。ちなみに抱き付くというオプション付き。
「満ー、今日俺の部屋こなーい?」
これは同様に生徒会の美形、遊び人で有名な会計の言葉。相変わらず言うことがどこかえっちぃ。
「あーもう、うぜぇって!」
そして、これが最近何かと白戸学園を騒がせているボサボサ頭で分厚いメガネをかけた編入生の怒声。
「満、俺のものになる気にはなったか?」
「ならねーよっ!」
そして最後。
告白まがいな言葉を速攻で否定された超絶美形。
高身長。
長い手足。
金に近い茶髪。
切れ長の瞳。
腰にくる低音ボイス。
整った目鼻立ち。
そして金持ち。
欠点なんか何一つない。そう思わせるような存在。
それが僕、斎藤柳の通う白戸学園の生徒会長。
西園寺真人。その人です。
そして彼は、僕の…―――――
************
夕食を食堂で食べなければよかった。そうすれば僕は心休まる時間が少しは持てたはず。
自室に帰宅して早々に、僕は後悔した。ドアを閉めながら、僕はため息をこぼすまいとこらえる。
「柳ーっ!」
「寄らないで下さい。下半身馬鹿」
自室の扉を開けた途端、いきなり飛び付いてきたアホの頭に、僕は肘鉄をお見舞いしてやった。
「いだっ!」
「なんで同室者でもない貴方がいるんですか。貴方は勝手に人の部屋に入る変態ですか。変態なんですね」
「幼なじみなんだから、それくらいで怒るなよ…」
「ただの幼なじみは、学園のマスターキーなんて持ってません」
そうピシャリッと言い放てば、幼なじみのアホは口を尖らせて不満そうにする。
貴方がそんな表情しても可愛くありません、と言いたい。
「柳は俺が幼なじみなの、嫌なのかよ…」
「やっと自覚したんですか」
「えっ、マジで嫌なのかっ!?」
そう言って涙目になりかけている幼なじみ。
どうでもいいけど、貴方が床に座り込んでるせいで、僕は部屋にあがれないんですけど。
さっさとどいて欲しい。
僕は内心でそう毒づきながら冷めた目で彼を見つめる。
しばらく放置していたら、幼なじみはポツリと呟いた。
「柳も……俺が嫌いなんだ」
「は?」
僕「も」って何?
首を傾げてみせると、幼なじみは端正な顔をくしゃりと歪める。
「だって満も俺が嫌いだから、俺のものにならないんだぁーっ!」
半泣きになりながら、叫ぶようにそう言う幼なじみ。
高身長。
長い手足。
金に近い茶髪。
切れ長の瞳。
腰にくる低音ボイス。
整った目鼻立ち。
そして金持ち。
それが、僕の幼なじみ。
そう。
白戸学園の生徒会長、西園寺真人こそ、僕の幼なじみなのだ。
こんなヘタレが生徒会長なんて世も末ですよねえ、なんてことを考えながら、ひとまず僕はしゃがみこむ幼なじみの頭に手を伸ばし、撫でてやる。
「とりあえず、僕は貴方のこと嫌いじゃありません」
「だってさっき…」
「あんなの冗談ですよ」
「本当か!? 本当なんだな!?」
「八割くらいは」
「リアルな数字!」
何はともあれ、機嫌の浮上した幼なじみ。
立ち上がった幼なじみは、僕より10センチは高くて、それに少しだけムッとしましたが、彼が立ち上がったので、スペースが出来てやっと僕は自室にあがれた。
やれやれ。
「それにしても、柳、最近冷たい。小さい頃のお前はもっと俺に優しかったのに……」
僕は生徒手帳を開いて写真を見る幼なじみに気づき、その手元を見て顔をしかめた。
「うわっ、きもい。なんで僕達の小さい頃の写真なんか持ってるんですか。まさかその写真持ち歩いてるんじゃ……」
「……別に、いいだろ!」
僕の問いに答えないで、幼なじみは複雑そうな顔で生徒手帳をパタンと閉める。
小さい頃の写真を常備とか、この人の考えることは本当によくわからない。
そんなことを考えていると、幼なじみが気まずそうに身じろいでいるのが視界に映る。
僕の些細な言葉をまだ気にしているのかと、なんだか呆れたような気持ちになりながら僕はフォローのために口を開く。
「ま、貴方を嫌う人なんて中々いないんで、元気出して下さいよ」
それに貴方がしょぼくれてると、足蹴にしたくなりますしね。
「柳がそういうならそうだよな。…さんきゅ」
本音を隠した励ましに、幼なじみが笑顔でお礼をしてきたから、思わず僕も笑ってしまった。
まったく、
なんて馬鹿な幼なじみ。
END
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