アイツの姿は、ホント眠ってるみたいで、優しいアイツなら、今にも起きだして泣いている奴を慰めようとするはずなのに。



それなのに、アイツはずっと眠ったままなんだ。



どうして俺は泣かないんだろう?


周りはみんな泣いているのに。

心は痛いくらい悲鳴を上げているのに。



俺だけ1人、取り残されて。




無表情でぽつんといる俺を、周りはなんて薄情な奴なんだと思うだろう。だけど、どうしようもない。泣けないんだ。どうしても。




泣きたいはずなのに、心はぽっかり穴があいたみたいで、アイツがいないなんて信じたくないんだ。いや、信じられないんだ。



「七瀬(ナナセ)………」



肩を叩かれて、名を呼ばれる。


振り向くと、そこにはアイツ以外のもう1人の親友・和志(カズシ)の心配そうな…でも、どこか疲れたような顔があった。




「……七瀬、その、大丈夫か…?」


「…お前の方こそ、大丈夫かよ和志」


「ん…大丈夫。いつまでも泣いてたら、椎那(シイナ)に悪いだろ……。アイツ、泣いてる奴がいたら泣き止むまで慰めるじゃん」



そう言って、悲しそうに笑った和志の目は赤く、それは和志が先ほどまで泣いていたことを暗に示していた。

和志の性格をそのまま表したような快活そうな瞳は、今は悲しみの色が濃い。



――…そうか、和志は泣けたのか。




いつだって、俺達は三人でいた。

いつだって、三人でなんでもやれた。



楽しくて、楽しくて。

三人でいることが、一番好きだった。




なのに、ここにお前はいない。




和志は涙を流してそれを悲しんだ。





そのことに、俺は孤独を感じる。


何かが崩れた音が聞こえた。そんな気がしてならなくて。



―――なんで、お前はここにいないんだろうな?

……椎那。


ひっそりと胸中で呟いても、答えてくれる声はない。






そして、あれから何日、何ヵ月過ぎてから俺はある仮説に思い至る。


俺が泣かないのは、もしからたらもう一度、死んだ親友の椎那に会えるからかもしれない。



『黄泉の日』



それは毎年一回、昨年に死んでしまった人が三日間だけ戻ってくる日のこと。



毎年この三日間だけは学校も休みになる。大人達の何人かも休暇をとって、二度と帰らぬ人との三日間を悔いの残らぬように各々が過ごす。


それが『黄泉の日』




昔、アイツが…椎那が言っていた。


「神様って優しいよな。だって三日間だけでも死んだ人に会えるなんてすっごく、すっごく嬉しいじゃん」


そう言っていた椎那は笑顔だったと思う。昔のことだから朧気だが、確かに椎那の言葉で間違いない。


俺だって、すごく嬉しいに決まってる。





椎那にもう一度会える。『黄泉の日』になれば会えるんだ。



椎那の死んだあの日から、俺達の何かが崩れてしまったみたいで。


今だに俺の心は空虚なままで、和志もどこか暗くて。



きっと、椎那が戻ってくれば何かが変わる。変えられるはず。椎那が俺の心を戻してくれて、和志に明るさを取り戻してくれる。そうして、崩れた何かも元通りになるんだ。



だっていつもそうだったから。




椎那と俺と和志。三人でなら、なんでも上手くいくんだ。


だから、きっと。


きっと『黄泉の日』に三人が揃えば、何もかも元通りになるんだと俺は信じている。




『黄泉の日』は、明日。




明日、椎那は帰ってくる。




きっと…上手くいく。







 

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