●告白劇裏側
※日向視点
泣いている。
猛烈に。豪快に。痛烈に。滑稽に。単純に。苛烈に。大胆に。
一言で言えば、号泣。
さて部活だ、と鞄を片手に因幡と美作と連れ立って部室へ向かえばそこに広がる予想外な光景。
泣く子も震え上がり口を閉ざしてしまうと、学園で恐れられている演劇部の破天荒部長が、あろうことか聖地である部室で泣き伏していた。
「うっ…う…、ば、馬鹿ぁぁぁあぁああ!や、大和の…ば、…ひっぐ」
「……さ、相模せんぱーい…?どうしたんですかー…?」
おずおずと因幡が号泣しながら机に突っ伏している相模先輩に声をかける。視界の端では美作がポケットティッシュを鞄から取り出していた。相模先輩は相変わらず泣き喚いている。ああ、なんだ、この状況。
「や、大和がぁ……!わ、かさくんと抱き合ってて…ぐすっ」
「え、なにそのBLシーン!フラグ?あの会長さんったら、王道くんとフラグ立ってたのぉぉおお!?」
テンションがあがる因幡。因幡の言葉にますます泣きじゃくる相模先輩。
美作はそんな相模先輩にあたふたとしていて使い物になりそうない。臨機応変って言葉が彼には当て嵌まらなさそう。よくいえば、素直。
仕方ない。どうやらこの状況を解決できるのは自分しないないようだ。
それではまず、予想をたててみよう。
「相模先輩、会長のこと、好きですよねぇ?」
「ひっぐ……うん。す、好き、だけどぉぉおお!あ、あいつ、若狭くん…ぐすっ。で、でも諦め…ひっぐ!うっ…うわぁぁぁあぁああん!!!!」
「ねぇねぇ相模先輩!!その会長が若狭くんとどうのこうのってあたり、もうちょいkws…」
「はいはい、腐男子は自重しようか」
今のでわかったが、どうやらバ会長があの可愛らしいお顔をした1年となにやら怪しい雰囲気だったところを相模先輩は目撃し、失恋したと思ってるようだ。
でも、諦めきれない。
それでも好きだ、と。
「美作ぁー。これさ、絶対絶対絶対絶対、相模先輩なにか誤解したと思うんだよねー」
「……それは俺も、同感だ」
相模先輩にティッシュを差し出しながら頷く美作に、自分の予想に確信を深める。
そもそも、あの会長は相模先輩にベタ惚れしてるんだから失恋も何もありゃしないと思うんだよね。
両片思いとか、見てるこっちは焦れったいことこの上ないのに、失恋って誤解するし、誤解を招くようなことしちゃうし、相模先輩も会長も、早くくっつけばいいのに。てか、早くくっつけよ。
あれだよね。これはもう僕らがどうにかしてやるしかない、と。神は言っているってわけだね。
よーし、どうにかしてやるよ。
「相模先輩。このままじゃ嫌ですよねぇ?」
「…な、なにが?ひっぐ」
「大和会長に気持ち、伝えなくていいんですか?」
諭すように囁けば、相模先輩はふるふると握った拳を震わせて口を開く。
「……嫌だっ!」
「なら、告白しちゃおー。盛大に、華々しく。やっぱり告白ってそういうもんですしねー」
因幡が告白という言葉に目を輝かせる。良くも悪くもこいつは乗せやすいから案外便利だったりー。
「因幡、美作、手伝えるよね?相模先輩の告白」
「もちろんですよ!!どこまでも手伝いますよ!!!!」
「……常識の範囲内でなら、な」
お人好しの美作も、ため息をつきながら因幡に追随するように同意。
当の本人、相模先輩はなんだか闘志が芽生えたのか険しい顔で瞳に決意の炎を揺らめかせていた。
「なら、観客が大勢いるし、相模先輩の最後の舞台が告白の場にふさわしいって思いません?舞台で告白とか、かっこいいし」
「確かに、な!それにかっこいいだけじゃなくて、舞台で告白はうちのお袋が親父にした我が家の伝統的な告白だし、俺もそれに習うべきだよな!!」
「先輩のお母さんってアグレッシブな方ですねー!」
「………アグレッシブの使い方、それでいいのか?」
とんとん進む告白大作戦。自分の理想通りに相模先輩が告白劇を繰り広げてくれるように僕は会話をそのように仕向ける。
全ては手間のかかる相模先輩とあのバ会長のため。
観客もいれば、さすがにあのヘタレも逃げないし何かしら示すでしょ。
そうして演劇部の策士は、口元を三日月のように歪めて未来を夢想するのでした、と。
END
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