「貴方と僕のあれこれ。」時系列は記憶戻る前。
真人視点。
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「しりとりしましょう」
「柳がそんなこと言うの珍しいな」
そういう意味のない遊びの提案は、いつもは俺が言うのに。
「たまにはいいじゃないですか。それとも僕がしりとりしようって言うのに文句でもあるんですか」
「いや、別に文句はないけど」
「まあ、文句なんか言ったらその無駄に綺麗な面をひっぱたきますけどね」
「なにそれ理不尽すぎる暴力!」
ついに幼なじみは毒舌だけではあきたらず、肉体的にも俺をいたぶるつもりなのか。
戦々恐々と見つめると、優しく柳は微笑んだ。
「そんな怯えないでくださいよ。こんなこと言うの、貴方だけなんですから」
「なんでだろう。特別扱いされるのは嬉しいのに、その特別扱いの内容に泣きそう」
「嬉し泣きですか?」
「お前わかってて言ってるよね!? 明らかに違うから!」
「まあ、とりあえず早くしりとりしましょうよ」
「スルーかよ!」
「なにか文句が?」
「…ありません」
笑顔が怖い。目が笑ってないよ柳。
「ではいきます。まずはミトコンドリア」
「あれ、しりとりから始めないのか?」
「常識にとらわれていたら人間は成長しませんよ」
「なんでいい話っぽくしたんだ……うーん、赤信号?」
「海」
俺はそこで衝撃を受ける。
「柳が…普通のしりとりしてる」
「なに驚いてるんですか」
「だって、いつも『り』責めとか『し』責めとかしてくるのに!」
「お望とあらばいくらでもしてあげますよ?」
「結構です」
「それは残念」
いや、本当に残念な顔をしないでほしい。
「み、み……ミステリー」
「リス」
「西瓜!」
「カジノ」
「の、の、農家」
「家事」
「じ……ジオラマ!」
そのとき、柳の肩がぴくりと反応する。
「ま……」
「ま?」
一文字だけ呟いて沈黙する幼なじみに、俺は首を傾げる。
まさか、もう降参なのか?
あの柳が?
「………………ま、まさ、…マサチューセッツ工科大学」
「え、く、くらげ」
なんでそんな言いづらい単語のチョイス?
柳は心なしか落ち込んでいるように目を伏せている。
「…………芸術家」
「カメラ!」
「……雷鳴」
「い…、石!」
「深夜」
や、や、と考えて、ふと目の前の幼なじみをまじまじと見つめる。
「なんですか?」
怪訝そうな彼に、俺は笑顔を向けた。
「柳!」
「は?」
「しりとり! 『や』だっただろ? だから柳!」
そう言った瞬間、音速を超えるんじゃないかというくらいの速さで鳩尾に幼なじみの拳が襲ってきた。
なんで。
「まさか貴方に先にやられるなんて……」
「な、なにが? てか、柳……痛い」
「そんな痛み、僕の悔しさに比べたら……耐えてください」
「俺がお前になにをしたって言うの……」
(ナチュラルに名前を呼んでみたかったとか、言えるわけがない)
END
拍手ありがとうございました!
次は『この正しくない世界で』の二人で
お礼文となります。