お題3 | ナノ



時折ある閻魔大王主催の飲み会で、宴も闌という時に鬼灯が解散の音頭を取ろうとした時にそれは起こった。

「鬼灯様、菜々子さん寝ちゃいましたよ」
「誰ですか彼女に酒を飲ませた奴は!菜々子さんは弱いので飲まなかったはずなのに!」
くてん、と机に頬を付けて顔を赤らめてすやすや眠りに落ちる鬼女が一人。
そしてその鬼女の周りでは数人の男獄卒が「俺が送る」「いや俺が」「間を取って俺が」と誰が送っていくかを争っていたので唐瓜がこれは危険だと鬼灯に知らせたのだ。
鬼灯はすぐに間に割って入り、ここはいいから帰りなさいと狼になりそこねた獄卒を追い払った。
上司命令では仕方がないと渋々帰ったのを見やり、鬼灯は盛大にため息を吐いた。

彼女を送って帰るのはいいが大王も潰れてしまっている。
さすがにあの図体のでかいのと菜々子とを一気に担げる気がせず、こうなったら彼女を背負い大王を蹴り転がしながら帰るかと首をひねっていた所に奥から一人の鬼が鬼灯の元へとやってきた。

「あー、もうお開きかぁ?」 
にかーっと陽気な笑顔で気持ちよく酔っているらしいその鬼、烏頭を見て鬼灯は目を見開きこくりと頷く。

「おや烏頭さん良いところに。貴方暇でしょう、蓬さんも来ていませんし。ちょっと菜々子さん送って帰ってあげてくださいよ」
「え、菜々子潰れてんの?飲めないから飲まねえ筈なのに」
すやすや眠る菜々子を見やり、烏頭に問いかければこれまた珍しそうに目を見開く烏頭。
彼女、菜々子は彼らの幼馴染でもあり、酒に酔いやすいので普段から飲まないようにしていることもよく知っているだけに今の事態が信じられないようだった。

「どっかの馬鹿がこっそり飲ませたんでしょう。で、お任せしても?」
「オウ、俺ら幼馴染だからな、それくらい構わねー」
多分先ほどの成り損ね狼の誰か、もしくはその後一行が彼女のお茶に混ぜて飲ませたのだろうが、確信がないので責めることは出来ない。
取り敢えず彼女が起きないので送って行くことはもう確定事項なのだ。ここはひとつ信頼できる人物にお願いするしか無いのだ。

「ではお願いします。くれぐれも送り狼にならないように」
「わーってるっての。じゃあ背中に乗せてくれよ。っと、行くぞ菜々子ーって聞こえねーか」
菜々子をひょいっと背負い立ち上がる烏頭の足取りは軽い。
菜々子がさほど重くないということもあるが、烏頭は鬼である。
力の強い鬼だから彼女一人おぶることに対して力はいらないようだった。

去っていく後ろ姿を見送り、鬼灯はボソリと呟いた。


「烏頭さん大丈夫ですかねえ」
「烏頭さんあんまり酔ってなさそうだし大丈夫じゃ?」 
あんなにあっさりと彼女の身を任せた割に鬼灯の言葉は重い。
唐瓜は見えなくなった烏頭の姿から視線を外し鬼灯を見上げたが鬼灯は少しだけ首を傾げているようだった。

「いえ、烏頭さん実は菜々子さんにずっと片思いなんです」
「へー」
全然知らなかった烏頭の恋愛事情に少し自分の姿を重ねてしまった唐瓜は心のなかで「お互い頑張りましょう烏頭さん!」とエールを送るが、その一方で「先にくっつかないでくださいね」とも年を送ってしまい自分の器の小ささを知り少しだけ恥ずかしくなったがそれは顔に出さないようにしたつもりだった。

「まあヘタレだから大丈夫でしょうけど。そうでないなら今頃くっつくかこっぴどく振られるかしてる筈ですからね」
いつか彼女の背を越えたら告白するんだ、と皆同じくらいの背丈だった時に言った烏頭の言葉を思い返すが、それが実行されたことはなかった。
背が少し越えて、告白するんですかと尋ねた時に「まだまだもっと大きくなったら!」と返してきた烏頭はもっともっとずっと、彼女より20センチ以上背が伸びてもなんだかんだと口実を作り告白することはなかった。

ただ、ずっと思い続けていることだけは鬼灯は知っていたし、他人の恋愛事に口を挟むことがなかったから多分今こうなっているのだろうなという思いはある。
何処かで背を押していたら多分、菜々子と烏頭は付き合っていただろうなという確信は持ってはいるが所詮他人ごとである。

「鬼灯様容赦ねーなー!」
「こら茄子!口の聞き方に気をつけろよ」
呑気に口を挟む茄子に拳骨をくれてやり、自分たちもお開きだから帰ろうと鬼灯にお辞儀をしてその場を離れた。
鬼灯はその後会計を大王の財布から支払い、自分の金棒と共に首根っこを掴んで引きずりながら家路につく。
そしてこの運び方だったら菜々子も運べたなと思ったが、烏頭に任せたからまあもういいだろうと思い、閻魔殿の寮の扉をくぐったのだった。



「おら菜々子ついたぞーって、きこえねーか」
菜々子の部屋の前につき、背中の住人に声を掛けたがもちろん返事はなく。
仕方ないよなと笑って溜息を付き鍵を開け草履を脱ぎ部屋に上がり込んで部屋をぐるっと見渡した。
彼女らしい装飾に、よく使っているのを見る鞄を見つけ、そのそばに置いてある鶉のぬいぐるみを見つけてちょっと笑ってしまう。
昔現世に行った時に烏頭が買ってきたものだ。その横にはお香が買ってきた蛇のぬいぐるみも置いてあり、どちらも埃の一つもついていないのを見て大事にしてくれてるんだなあとちょっと泣きそうになったのは秘密だ。

「ベッドに下ろすかんな、落ちるなよ」
出来るだけゆっくりと、慎重にベッドの上に下ろすと反動で少し体が跳ねる。
跳ねた途端に捲れた着物の裾が白い脛を外気に晒し出されて、烏頭はなるべく見ないようにと言う体をしながら、実はばっちりと見ながら着物の裾を直した。

「つーか無防備すぎんだろ。俺も男なんだけどなー」
くぅくぅと寝入り、起きる気配もない菜々子に烏頭は笑いながらため息を吐く。
桃色の頬はアルコールの所為なのだろう、いつもより可愛く見えて心臓がどきりと跳ねた。
じいっと顔を見つめ、近づいてお互いの息がかかるほどに近づいても菜々子の気配は全く変わらず。
しっかり寝入りすぎてつまらないなと思いながら、烏頭は菜々子の頬をひと撫でして。

「襲っちまうぞ」
ちゅ、と頬に、唇の端ギリギリにキスをすると菜々子はうーんと唸って身動ぎしたが起きることはなかった。

「今日はこれくらいで勘弁しといてやるか」
伸びをして、帰るかぁと思ったけどなんか帰るのが悔しくて、起きた時に俺がいたら菜々子ビビるんじゃね?なんて思いながらベッドの下のラグの上ににゴロンと転がって少し身を縮めて目を閉じたらあっという間に眠ってしまったようだった。



「ほんと、ヘタレだわ」
烏頭が規則正しくやかましく寝息を立て始めたのと同時にゆっくりと身を起こしたのは菜々子だった。
酔いやすいがある程度でアルコールは分解されて、いつからか寝た振りをしていたらしい菜々子がベッドの下で縮こまらせていた身を伸ばし大の字になってガーゴー言い出したのを見て呆れたように笑って、帯と紐を数本外し楽な格好になるとベッドから身を乗り出し、烏頭に覆いかぶさるようにして床に手をついて。

「バカ烏頭」
その言葉のすぐ後に、煩く鼾をかく烏頭の唇に自分のそれで触れた。
一瞬鼾が止まったのを見て、起きたのかと目を丸くしたが、むにゃむにゃ言ってまた口を大きく開けて鼾をかきだしたのを見て、ホッとしたような残念だったような表情になりまた烏頭に軽くキスをして、ずるりと身を掛け布団ごとベッドから滑り落として烏頭の横に転がった。

「起きたら騒いでやろうかな。お互いちょっと着物肌蹴させておいて『酔った烏頭に汚された!』とか言って泣いて見せたら焦るかな」
想像したが困ってオロオロする烏頭しか思い浮かばずにダメだろうなーとため息を吐き出し、菜々子は烏頭に寄り添って目を閉じた。
次に目を開けた途端、烏頭が困ったように焦りながら「覚えてねーけど責任とるから!」と言って土下座する様を見られるとは思いもせずに。
(「悪い菜々子、送ってきただけのつもりだったんだけど!」「…(ポカーン」「まさか菜々子引きずり下ろしてるとは思いもしなくてよ、その、あの、起きたら俺マッパだし菜々子もその脚とかうわあマジ悪い!」「(烏頭ってば寝ながら脱いだのか」「ず、ずっと好きだったから多分鬼の本分でその強引に、ってか言い訳辞めるから結婚して下さい!」「知ってたけど烏頭ってもの凄い馬鹿だ」「何と言われようが構わねーから!」)
おわり
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責任取らせたい(*´Д`)ハァハァ
送り狼になれないへたれさん!
送りチワワくらいか?




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