おだい | ナノ

01-02見開いた先に


「あなたなんか好きじゃないです」
態々私の前まで、用も無いのにやってきて鬼灯くんは私に向かってそう告げた。
ぽかんとした後、だからどうしたと私は表情も変えずに彼を見つめ返して。

「私も別に好きじゃないよ。白澤さんの方が分かりやすいし親しみもてるし」
と告げると、鬼灯くんは眉根をこれでもかと寄せて私を睨みつけた。


私と鬼灯くんの関係は幼馴染と言うやつだ。
ほかにお香ちゃんや烏頭くんに蓬くんもいる。
何かあると良く昔はつるんで何かやらかしたものだけど、どっちかと言うと男女別れてしまうのでお香ちゃんとの方が仲が良い。
だから一番仲が良いとは思ったことは無かったけど、特別悪いとも思ったことは無かった。

ただ、今回のように面と向かってこんなことを言われたのは初めてで正直驚いている。
良く悪戯されたし、し返したし、悪態付き合ったし、殴る蹴るの喧嘩もした。
どちらかというといつも鬼灯くんがちょっかいをかけてきて、私が喧嘩を買うと言う事ばかりだったけど。
みんなで飲みに行ったときとかは普通に接しているからそこまで嫌われているとは思ってなかったけど、それはやっぱり体面を気にしての事だったのかなと思いながら私は仕事に戻った。

鬼灯くんがどんな顔をしているかも気がつかず。

後日すれ違ったときに何か言いたそうにしていたけどあえて無視をした。
というか気がつかない振りをした。
無駄に喧嘩をするよりも無関心の方が良い、そう思ったからだ。
喧嘩するほど仲が良い、というわけでもなかったと気がつかされたから、余計にそう思ったのかもしれないが。



「うぉっ、停電」
地獄は暗い。
窓があってもそこまで明るくはないので電気が無いと本当に暗い。
真っ暗な中での資料探しは無理と、電気を変えるかと資料室から出ようとしたのだが、ドアが開かない。
何だこれは、ひょっとしたら虐めか??
あかないドアノブをガチャガチャと鳴らしたがどうしようもない。
仕方が無い、少し待つかとドアにもたれかかって座り込み足音がするのを待った。

ひたひた、ひたひた。
足音らしき音がしたのでドアを内側から叩いて開けてくれと声をかけると、資料室の前で誰かの足音がぴたりと止まった。
そして良く知っている、バリトンの声がドア越しに聞こえてちょっと失敗したかと私は肩を竦めた。

「菜々子さん、ですか」
「はぁ、まあ、そういうことです」
これは開けてもらえないかと思ったが、すんなりとがちゃがちゃとドアノブを捻る音がして私はドアから離れた。
大きくバキッ、と言う破壊音を聞き、ドア壊れた!と思いながらそこが開くのを只管に待った。

暫くして、きぃ、とドアが軋み、ゆっくりと開くのが差し込む眩しい光を瞼に感じて理解した。

「菜々子さん」
「鬼灯様ありがとう…ございます、開けてくれて」
様付けで呼んだことの無い幼馴染の名を呼ぶ。
逆光で表情は分からないけれど、きっといつも通りの無表情なのだろう。
ここから出ようと立ち上がれば、ぐいと引かれた二の腕に痛みが走り、思わず顔を顰めた。

「様付けとは、初めてですね」
「そうですね」
あなたらしくも無い、と言われて無感情でそうですかと返事をすれば、近づいた顔が逆光ながら少し読み取れてぎょっとした。
眉値を顰めて…無ではなく、怖い表情でもなく、少し悲しそうで。

「菜々子さん」
名前を呼ばれた、その音が、更に悲しげで思わず訝しげに見上げてしまった。
「あなたなんか好きじゃないです」
またいうか、と、以前と同じ台詞にますますこちらの眉根が寄る。
分かってる、と返事をすれば、いいえあなたは分かっていないとぎゅっと二の腕を握り締められた。

「こんなに私の感情を揺さぶって、なのにあなたは気にもせず飄々としている。あなたなんか嫌いだ。愛しすぎて、嫌いです」
入り口の光が差し込むだけの真っ暗な資料室で、何を言っているんだろうか、この鬼神は。

掴まれた二の腕がぎりりと痛み、私を見つめる鬼神の表情に心が軋む。
少年期を拗らせたまま大きくなってしまったかのようなことを言う、図体ばかりでかく年ばかり重ねたこの鬼を、私はなんとも言えない気持ちで見上げ続ける。
沈黙が続き、私の二の腕を拘束している掌が緩み、この幼馴染は自分の目元をその手で覆った。

「何を言ってるんだこの鬼は、とでもお思いでしょうが」
本心です、と小さく呟いてため息を吐いた。
どう返事をしたものかと悩みつつそのでかい図体を見上げれば、なんだか笑いがこみ上げてきた。
隠し切れない笑みをそのままに、私は「馬鹿な鬼灯くん」とだけ呟いた。

あまりにも台詞とあわない声色に、瞳を覆い隠していた手が取り除かれ、その瞳の見開いた先に、移りこむ私の顔はとても穏やかで。
鬼灯くんはそんな私を見て更に目を見開き、「どうせ馬鹿です」と呟いた。

「なにその好きな子を苛めたいみたいな、ガキ大将みたいなの」
「全くそのとおりです。菜々子さんを見るたびに愛しすぎて苛めたくなる」
なんだかお互い滑稽に思えてきたのだろう、鬼灯くんの表情も緩んで目は笑っているように見える。
先ほど鬼灯くんの瞳に映った私みたいだと、思った。

「愛おしいなら大人らしく優しくしてよね」
そしたら私の態度も変わるよと、笑いながら言えば鬼灯くんはこくりと無言で頷いて。
「善処しますから、私をあの偶蹄類より下に置かないでください」
そんなことを言うものだから、私は余計に笑いがこみ上げてきて鬼灯くんの体に抱きついた。
(「ところで菜々子さんはどうしてこんなところに」「さあ、急に電気が消えて鍵が開かなくなっちゃって」「ほう、誰かに苛められでもしましたか」「どうだろうね」「菜々子さんを苛めていいのは私だけです」「いや、苛めないでよ」「もう苛めません、多分」「多分かい」「愛おしすぎると苛めたくなるんですから仕方ないでしょう」「大人らしくはどこ行った」)
おわり
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ツンデレにしたかったのにどうしてこうなった??


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