おだい | ナノ

大切に温め過ぎた想い。


「はー、今日も格好良かった」
ほう、と溜め息を吐いて回想するのは鬼灯様のこと。
もうずっと昔から大好きで、好きすぎてなにか拗らせてしまっているんじゃないかという程好きだ。

思いを伝えようとした時期もあった、態度に出した時期もあった。
だけど鬼灯様は全く変わらずに接してくれるのでこれは脈が無いんだろうと、告白することをもっと私が出世してから、私がこれが出来るようになったら、これが持てるようになったら、この資格をとったら、と先送りにしているうちに見ているだけで満足するようになってしまった。

下手をすればこうやって回想するだけで満足できる。
話しかけなくても誰かと話す声が聞ければそれで満たされてしまう。
いっそそれらをかき集めて脳内補完でもういいんじゃないだろうかというほどだ。
大切に温め過ぎた想い。それは卵の殻を破らずにそのまま中で雛が孵ってしまい外の世界を欲せず過ごしているかのよう。

もしこの先、いや明日にでも鬼灯様がどこぞの女性と結婚することになってしまっても、笑顔で祝福できてしまうかもしれない。
私の心に巣食う鬼灯様の残像は私だけのものだから、誰にも、鬼灯様にも手が出せないものだから。


さあ部屋に帰ろう、としたところで生姜さんに話しかけられた。
最近話題のお店の話とか、そんな他愛無いことを話していると視界の隅に鬼灯様が歩いているところが見て取れたけど、見れたことで幸せになってしまって超笑顔で生姜さんと話し続けていると、足音が近づいてきて。

「楽しそうですね」
声がかかったと思い振り向けば鬼灯様ご本人だった。

「お疲れ様です、今日もお仕事お疲れ様でした」
にっこり笑って挨拶をして、昔みたいに上がったりしない。
この『楽しそうですね』が脳に録音されてまた脳内補完出来そうだと思いながら生姜さんとの話の続きをしようとしたら、何やら少し顔色が曇る鬼灯様。

「あ、生姜さんに御用でしたか?私お邪魔ですね」
ではまた、と去ろうとしたところをぐいと手首を掴まれた。
生姜さんではなく、鬼灯様に。

「あ、れ?」
「なぜ私が菜々子さんに話しかけたと思わないんですか」
そういった後に生姜さんに向き直り、「すみませんが菜々子さんに用なので外して頂いても?」と少し強い口調で言った鬼灯様に、生姜さんはびくりと体を震わせた後私と鬼灯様に挨拶をして立ち去ってしまった。

残されたのは私と鬼灯様。
この手首の熱をまた脳内補完して私の中の鬼灯様像が色濃くなっていくのを嬉しく思いながらなにか用かと問いかければ、鬼灯様は非常に面白くない表情をして。

「菜々子さん、貴方私のことが好きだったんじゃないのですか」
刺のある言葉で私を貫いて、私はびっくりして目を見開いた。

「ええまあ、好きですけど。それがどうかしましたか?」
何を言うのだろうかと首を傾げれば、大きな音で舌打ちされて。

「私と話したいとか、私と一緒にいたいとか、そういうのないんですか」
昔は少しはそういう態度をとってくれていたでしょう、と、昔の私の行動を覚えていてくれたらしい言葉に更に驚かされたが、もう青いだけの昔の私ではない。

「いえ、別にもういいかなと。お邪魔になってもいけませんし」
見ているだけでいいのだ、いや、想えるだけでいいのだ。
そう思いながら告げれば、非常に寂しそうな、なんとも言いがたい表情で私から少し視線を外した。

「…つまらない」
本当につまらなさそうにそういう鬼灯様は私で遊ぼうとでも思っていたのか、宛が外れてつまらないのかと曖昧に笑おうとしたら言葉の追撃があった。

「昔はこうしただけで赤くなって舞い上がっていて可愛いかったのに。今は興味も示してくれない。つまらない、本当につまらない。こうやって私の心を奪っておいて、今さらそれはないんじゃないですか」
随分とつれなくなってしまいましたね、と拗ねるように言われて私の思考は白くなった。
そして言葉の意味をなんとなく理解して、ぶるりと身が震えた。

「私ばかりに想わせて、ずるいんじゃないですか」
追いかけますよ、ときつい瞳で見つめなおされて私は更に身を震わせ軽く顔が熱くなったところで少しだけ満足そうにされた。

「全く興味がなくなった、というわけではなさそうで安心しました」
目がガラリと変わり、狩人の瞳になって少し楽しげに見える。
そしてその目で私を射抜いて。

「また前みたいに私一色に想わせて振り向かせますから、そして菜々子さんを手に入れますから覚悟していてくださいね」
囁く声が既に私を再び捉えて、腹の底が熱く燻るように身を焦がしていく。
立ち去る際にするりと頬を撫でる手が私にとどめを刺し、そしてそのまま去っていく後ろ姿。

あの瞳で、態度で…。
しっかり私の脳に入り込んできたその姿は私の脳裏にいた彼の虚像をすっかりと追い払い塗り替えてしまった。

また本人でしか満たされなくなるのが怖いけど、今度は昔みたいに一方通行に嘆き虚像を作る必要はなさそうだ。

「おもいっきり期待しすぎて前よりひどくなりそう」
鬼灯様が触れたところを触れなおして、一人熱くなる。
結局私はあの人の掌で踊り続けるんだろうなと、私の手の中では絶対に踊ってくれなさそうな鬼灯様を想い、固まっていた足を動かしたのだった。
(「生姜さんとあんなに笑顔で…私の事をその気にさせておいて別の標的を見つけたというのなら許さない」ギリリと歯を食いしばったらほのかに鉄の味が広がる。菜々子さんは私だけ見ていればいい。私の事を視界に入れておいて無視するくらいならいっそどこかに監禁してしまいたいが、出来れば自分の足でそれを望み捉えられてくれなければ意味が無い)
おわり
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頭の中の虚像ヽ(゚∀゚)ノ ☆
好きなアーティストって見てるだけでいいや。と思うタイプの人です
好きなアーティストとあれやこれやしたいと思うタイプはこうはならないだろうね(・∀・)


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