紅の




夢をみる。
私は女ではなく男で、そして忍者のような服をきている。
そして最後は、赤に染まって目が覚める。
私の前世(まえ)の光景を、私は今夢に見るのだ。

 


寝不足の目を水で冷やし洗面台の鏡をみると、そこには夢で見た美しい男ではなく、見慣れた女子高校生と呼ばれる年代の少女が写っていた。
この夢を見た後はどうもそれになれない。
適度についた筋肉に、少女らしい凹凸がついた体。
・・・紅に染まったことのない、体だ。

「ななまつ、せんぱい・・・」

追いかけていた男の名前を口に出しても、答えてくれる男(ひと)はいなかった。

 

「滝ちゃん、顔が悪いよ」

「・・・喜八郎、顔が悪いじゃなく、顔色が悪いだろう?」

もともと喜八郎という男だった友人も、今生では女として生まれていた。名前ももちろん喜八子(きやこ)という女性の名前があるのだが、滝はいまいち慣れない。

「ううん、顔が悪い。潮江先輩みたいな隈できてるし」

その言葉に、う、と眉を潜めると、滝はため息を吐いた。

「これはただ、夢見が悪かっただけだ。」

「また七松だ。滝ちゃん、いい加減あきらめればいいのに」

「七松先輩だろう、喜八郎。別に私は七松先輩を探している訳ではないのだ。」

滝の言葉に喜八郎は首をかしげながら、隈ができるくらい想っているのに?と問うた。
その言葉に苦笑しながら、滝は頷く。

「これは私の罪なのだ」

「・・・滝ちゃん、僕たちはもう室町に生きてる訳じゃないんだから、そろそろ今生(いま)の自分を考えたらどうなの?」

「そうもいかない」

だって私は最愛の方を手にかけてしまったのだから。
その光景も、感触も、気持ちも忘れられるものではないのだ。
そう微笑む滝に、むっとした様子で喜八郎はでこピンをかました。

 

(・・・いつも穴を掘っているとここまで握力は鍛えられるものなのか・・・)

痛む額を撫でながら、滝は保健室へ向かっていた。喜八郎のでこピンのせいではなく、連日悩まされている寝不足のせいでだ。
なるべくは行きたくはなかったのだが、顔色の悪い滝を心配した担任の教師が、むりやり滝を保健室へ送ってしまった。

「・・・失礼します」

そっと保健室の扉を開けると、新野がやさしく微笑んでいた。
保健室にいくと前世(まえ)と変わらずいる保健医の姿に、滝はまた重くなった心を自覚した。
小平太率いる体育委員会の活動の後は、高確率で自分より下の学年のことをここにつれてこなければいけなかったのだ。ただ、いまはもう滝と新野しかいないけれど。
それが今朝の夢もあって、とてつもなく寂しく感じた。

「平さん、顔色が悪いですね」

変わらない新野は、なぜ滝が保健室(ここ)にきたのかも分かっているようだった。
ただ優しく頭を撫でて、ベッドに滝を寝かせる。
変わらない人間は、今の滝には痛かった。
喜八郎も、新野先生も。すべてあの方に繋げてしまう。
そうポツリと呟いた滝に、新野は寂しげに微笑むだけだった。


高校に入るまでは、そこまで思いつめたりはしていなかった。
ただ、高校に入って喜八郎と再会し、新野に再開した。
前を思い出す要素が増えていくたびに、優しく暖かい夢だった前世(まえ)の記憶が、どんどん赤く染まっていった。
七松に会いたいか、と言われれば、滝は会いたいと答えるだろう。
会って、今度はあの人の手で終えたかった。

今そのようなことをすれば、小平太が罪に問われることは分かっているのに。
夢は滝の正常な考えを侵していく。

(死ぬなと笑って逝ったあの方は、幸せそうだったのに)

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