学園にいる時間というものは、一日一日早いようで。
空の青さが濃くなるにつれ、淡く薄紅色に色づく桜もあっという間に散らし、柔らかな新緑から、力強い深緑へと姿を変えていった。
鬱陶しいほどの、刺すような暑さと、じりじりと心地のよい蝉の声が耳を刺激する。
…―季節はもう、夏だった。
「よし、今日の授業はここまで!解散!」
先生の掛け声がかかり辺りがざわざわと騒がしくなる。
実技の授業も日に日に実践的なものに近づき、もともと体力にあまり自信のない僕はついていくことで精一杯だった。
きれる息を誰にも気づかれないように整え、汗を拭う。
日陰のある草むらに近づき、手を伸ばせば、ひんやりとした赤色が腕に巻き付き、その体温に心なしかホッとした。
「待たせたね、ジュンコ。さ、部屋に戻ろうか、」
周りの奇異に満ちた目など、とうに慣れた。
怯えるようにジュンコを見つめている同級生に冷たい視線を送り、僕は長屋へと歩き出した。
入学してから二日目の日、ジュンコを首に座らせ授業を受けていた時の周りの反応は、今思い出しても怒りで震えるほど、酷いものだった。
危ない、などと、恐ろしい、などと、ジュンコのことも知らないくせに、よくいったもんだ。
ぐっ、と力のこもる拳に、ジュンコがちろりと舌を出して僕を見た。
その様子に、思わずハッとする。
……ダメだな。
「…ん?ごめんよジュンコ、なんでもないよ。」
生き物っていうのは人の感情に敏感なのに…、ジュンコに要らない心配をかけてしまうところだった…。
自分に叱咤をいれ、前を向く。
…と、
「長屋はどっちだー!!!」
「こっちだ馬鹿!」
「左門ー、あんまりさくべーに手間かけさせるなよ」
「そう言いながらおまえも逆方向に進んでんだよ!この馬鹿っ!」
…ふと、賑やかな声に足を止め、僕は声のするほうへと顔を向けた。
向こうに見えたのは、左右逆に進もうとする、背の高い男と、見覚えのある緑。そしてそれを必死で両手で止めている赤毛の男。
…あれは…。
見覚えのある緑に、目を見開くときゅっ、と眼を閉じる。
―…『僕の名前は神崎左門!』
ずいぶん前の、春のにおいと共に、あの笑顔がちらついた。
…―そうか、友達ができたのか。
別にたいした会話をしたわけでもないというのに、そんな事を思った自分に馬鹿らしくなる。
…部屋に戻ろう。
そう自分に言い聞かせ、足を進めようとしたとき、
「おっ!またやってんなーあいつら!」
「んあ?なにが?だれのこと?」
「んだよ知らねーのか?ろ組の三馬鹿だよ!」
「三馬鹿?なにそれ、」
後ろを通る、同級生のそんな会話が耳に入り、思わず耳を傾けた。
「次屋三之助と神崎左門と、富松作兵衛の三人!成績は優秀だがやることはちゃめちゃでおっかしーんだ!」
「へぇー。」
「しかも次屋は“あの”七松先輩が居る体育委員会所属で、富松は用具委員会!あの神崎に至っては“あの”戦う会計委員会にはいってるんだぜ!」
「スゲー!!!」
「次屋と神崎の二人はすげー方向音痴で、同室の富松が面倒見てるんだって」
「うはは!なんだよそりゃ!…ってやっべー、こんなとこで笑ってるバヤイじゃなかった!委員長から呼び出しされてるんだった!」
「は!?お前そういうことは早く言えよ!」
「わりィ!走る!」
「あっ!ちょっとまてよー!」
二人の足音が遠ざかり、もう一度、いまだに同じ場所で騒ぎ続けてる三人を見つめる。
……………たのしそうな、顔、
ビー玉のようなきらきらした瞳は、
相変わらずなようだ。
…―きっと、彼らと僕は違う人種で、関わることなんてないんだろう。
僕はまた前を見据えると、再び歩みを進め、自室へと戻るのだった。
「んん?」
「?
どうした左門?」
「いや…あいつ…、」
「あ。毒虫やろう、もとい伊賀崎孫兵じゃん。」
「三之助、知ってるのか?!」
「っていうか…三之助だけじゃなくて俺も知ってるよ。あいつ有名だぜ?」
「そうなのか?!」
「変わってるって、」
「変わってる?すごいいい奴なのに?」
「左門、あいつと話したことあるの?」
「入学の時教室教えてもらった!」
「…………ふーん…、そっか、いい奴なのか。」
「おめぇっ!そんっな入学当初から人様に迷惑かけてやがったのか!」
「いったぁ!なぐることないだろさくべー!」
「「「(伊賀崎、孫兵、か…)」」」
―…彼らが“彼”に興味を持つのは、あともう少し
(夏、彼を知った、夏。)
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オンオフともに仲良くして頂いてる涙華様より頂きました!
素敵すぎてもう言葉が出ませんでした///
私が忍たまにはまったきっかけがこの方の小説なのでもう…!
この小説を頂いて読んだ後、孫さもというか三年が愛おしすぎて壁に頭を打ちつけていたアホはこの私ですww
涙華様、素敵小説本当にありがとうございました!