おめでと夫婦



「…おめでとう、伊作。2ヶ月だ。」

見慣れた旧友の顔を、善法寺 伊作(いさ)…数ヶ月には食満 伊作になる少女は目を見開いて見つめた。

「あの…長次…?なにが?」

「…妊娠して、2ヵ月…ということだ。お腹のなかに、赤子がいる」

もそもそと答えた中在家長次の言葉に伊作の思考は停止した。



心当たりは無いことも無い。ただ、昔とった杵柄よろしく、避妊はしっかりとしていたはずだった。
そう考えて、またひとつ、伊作はため息をついた。

そっと、まだ膨らんでもいないお腹を撫でてみる。

「留さん、なんていうかなぁ…」

あの子供好きの男は、それはもう喜ぶだろう。目に浮かぶ。
喜ばれないわけがないことを、伊作は知っていた。
伊作にとって問題なのは、留三郎がどんな反応をするかではない。

留三郎が、今現在17歳、まだ学生なのが問題なのだ。



俺が18歳になったら結婚しよう。

そう留三郎に言われたのは、伊作が25歳の誕生日のことだ。
前世(まえ)は同い年だった恋人が、8歳も年下なことに最初は驚いたが、伊作の幼くみえる外見もあってか留三郎が高校に入学するころには姉弟(きょうだい)には間違えられなくなっていた。

それでも、留三郎ははやく伊作に追いつきたいんだと、照れながら言った。
もちろん結婚することで追いつけるとは思っていないが、と笑う留三郎に、伊作は泣き笑いで首肯した。

口約束の婚約だった。
無論、二人は真剣だったが、なにしろ留三郎は法的にも結婚は認められていない年齢で、社会的にも経済的にも自立していない。

二人で考えて、双方の両親への挨拶は、せめて留三郎が高校を卒業してから、ということになっていた。


(それが…妊娠するなんて…)

また浅いため息をついて、伊作は暗い気持ちで帰路についた。



かちゃり、と自宅のドアの鍵を回すと、すでに開いているのか回らなかった。

(留三郎がきてるのかな…?)

これは話をするのにタイミングがいい、とドアを開けると、たっていたのは思っていた男ではなかった。

美しい濡鴉の髪に、漆黒の切れ長の瞳。白磁のような白い肌にすらりと伸びた手足。
10人中10人とも振り返るだろう美丈夫が、目を光らせて立っていた。

「せ、仙蔵…!?」

「伊作…長次から聞いたぞ…」

「え!?」

「あの男の子供を身籠ったそうじゃないか…?」

ここで訂正をいれさせてもらうと、仙蔵は直接長次から聞いたわけではなかった。
たまたま長次の勤める産婦人科に入っていく伊作を見つけ、後をつけ盗み聞きしただけだ。
なので、長次に聞いた、というのはあながち間違ってはいない。
なぜ病院内で盗み聞きなどして見つからないのか、それは仙蔵が仙蔵だからである。

「まさか、こんなことになるとは…」

「仙蔵…?」

「いいか、伊作。赤子ができたのは目出度い。私もとても嬉しい」

「あ、ありがとう…?」

「でもな、留三郎はまだ学生だ。金銭的にも伊作一人ではつらいだろう」

「まあ…お金がかかるよね、今の時代。稚児(ややこ)を生むって…」

そうだろう!?と仙蔵は伊作の肩をつかんだ。

「だから、腹の子の父親には私がなろう!」

「は?」

「私はたとえ、父親が誰であろうと伊作の子なら愛せる!」

「…ちょっと…え?仙蔵…?」

きらきらと伊作を見つめる仙蔵に、伊作は口を引きつらせた。

「私は伊作より1つ年上、年齢的にもあっているし、弁護士だから将来も安泰。
わたしは自分が担当した公判で負けたことなどないのだからな!」

「…」

「さ、伊作。ここにお前の名前とはんこを押してくれ」

そういって仙蔵が取り出したのは、“婚姻届”だった。
さあ、という仙蔵に向かって、伊作が口を開こうとした時。

ばん!という音とともに現れたのは、制服をきた留三郎だった。

















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