センチの恋







ふと、隣にいる真田を幸村は見上げた。
『見上げた』と言うことは、自分より身長が高い事を意味している。
幸村は、首を少しだけ下げ話し続けている彼の横顔を見詰めていた。

「聞いているのか、幸村?」

「あ……ごめん、ごめん。此処の事……だよね?」

真田の節くれた大きな手に握られているバインダーは、柳特製のメニューが記されてある。
その事について部長である幸村に伺いを立てていた真田は、びっしりと書き綴られた用紙から視線を上げてみれば、同じ箇所を見ているはずの幸村が、自分の方をボンヤリと見ていた。
聞いているのかと問えば、我に帰り取り繕った返事をしてきた。

「調子でも悪いのか?」

「違うよ。体調は問題無い。ただ……」

いつの間にか真田が、俺より大きくなってると気付いたんだ。
幸村は顔の前で手を左右に振り、調子の良し悪しを答える。そして思っていた事を口にすれば、真田は呆気に取られてしまう。
大きくなった、と言っても数字上はたった五センチ。たかがそれだけの差なのに幸村は、大それた表現をした。

「あまり変わらないだろう。たった五センチだ」

「その五センチって大きいんだよ」

真田の手に握られていたバインダーを取り上げ、机の上に放り投げると幸村は、真田の両腕を左右に広げる。そのままの姿勢でいる様に言い聞かせると、幸村も両腕を広げて、つかず離れずの位置で重ね合わせる。
「ほら、たった五センチでも、これだけ腕の長さが違うよ」

「そっ、それは、テニスをしているからだろう……」

先程していた幸村の、見上げてくる視線に緊張している真田は、口ごもってしまう。
そんな彼に構うことなく、マイペースで彼と自分との比較をして行く。
幸村の視線はどこか熱っぽく、ほんのりと目元が紅く染まっている。
色香などとは無縁の真田が、少しだけ、ほんの少しだけ小柄な幸村の言動と視線に惑わされてしまう。
己の理性の牙城が崩されようとした時、幸村の身体が倒れ込んできたのだ。
慌てて受け止めたその身体は、制服やユニフォーム姿から見るものとは違い、もっともっと細く儚い存在でいた。

「はいはい〜お二人さん。ラブラブ撒き散らすんは、止めんしゃい」

二人きりだと思っていた部室に突如、独特の言葉遣いをする人間の声が響く。
幸村の身体が倒れ込んできたのは、その声の持ち主が原因だった。背後から近づき、彼の膝裏を折ったのだ。

「仁王っ!! 幸村が怪我でもしたらどうするっ!!」

「それ、お前さんがそないして抱き抱えとるんじゃ。怪我なんかせんぜよ」

してやったりの顔をした仁王は、銀髪を揺らして部室から逃げ出した。



去り際に、『今日は誕生日じゃき、幸ちゃん離しなさんなよ』等と、豪快な笑い声と共に言葉を残して行った。
銀色の嵐は、一瞬にして吹き荒れ、一瞬にして収まり静けさが戻る。




「大丈夫か?」

「うん……ありがとう真田」

「礼など要らん。それより……離れる気は無いのか?」

しっかりと抱き着き、真田の背中を折らんばかり勢いで、腕に力を込めている幸村は頷く。
やっぱり大きい、と思いながら広い胸元に顔を埋めると、小さな声で…真田だけに聞こえる声でこう言った。



『誕生日おめでとう。いつまでも、いつまでも……真田の事、大好きだよ』







五センチの恋 / 20110520





ちょっとドタバタ〜としましたが、真田誕生日祝いに!!
おめでとう〜♪



ただ、仁王に膝カックン(古)をさせて抱き着かせたかっただけなんです。

ちゃんと幸ちゃんは誕生日だからと、腕を広げさせて真田に抱き着こうと思っていたんですが、仁王に邪魔された……と(笑)

でも結果はオーライなんで、OKっすよね♪




こんな小話ではございますが、お祝いに変えて…
フライングですが真田、誕生日おめでとう☆














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