待ち風







春の訪れを待ち侘びる弥生三月は、幸村の誕生日がある月だ。
まだ肌を冷たく刺す風に当たりながら傍らを歩く幸村へ、真田は視線を移した。少し長めの、緩やかに波打つ髪に風が戯れ、揺らめいている。それを押さえようと髪に手を添え、悪戯しないで欲しいと小さく笑っていた。

「ん?どうしたんだ、真田?」

「……いや、別に……」

見られている事に気付いたか幸村は、視線だけを真田へ移して問い掛ける。
唯、幸村を見ていたかっただけの真田は、問われても本心を答える訳には行かずに、濁して何時もの様に帽子を深く被り逃げた。

「狡いよ、逃げるなんて……また逃げるんだ、俺から」

言葉少な、特にこう言う感情を表す言葉には免疫の無い真田には、どう幸村に答えて良いのか判らずにいる。
しかし。
その反面、きちんと自分の声と言葉で、幸村を好きなのだと伝えたくてジレンマに陥っているのも確かな話だった。

「……すまん」

そして、最後は上手く言えずに謝って締めてしまう。
悪いとは、本当に思っている。
幸村に対する気持ちは、誰よりも深いと自負している。
なのに言えない自分に恥じる真田は、目深に被った帽子から顔を見せない様に、幸村から視線を外すのが常だった。






「……すまん」

「謝るなら、見るなよ」

「違うんだ、幸村」

「何?!」

真田は、目の前に在る愛しい者を、春風と共に優しく両腕で包み込んだ。
先程まで、冷たい風と真田の行動に凍てついていた幸村の、心も身体も熱く、熱い魂に抱かれるのだった。

「幸村を感じる此処が、そうさせた。お前の事を何よりも、誰よりも負けない位……好きだ」

そう言うと、目深にしていた帽子の鍔を引き上げ、驚いて目を見開いている幸村へ顔を見せた。
そして、片手で幸村の背に触れ、片手は自分の左胸に置いた真田は、真摯なる瞳で見詰める。
もう一度、好きだ――――と唱えると幸村は破顔し、一筋の涙を零した。





まだ冷たいはずの春待ち風は、仄かな桜色へと変わった。






春待ち風 / 20110304




フライング幸村誕生日祝いです☆


何時もなら逃げちゃう真田も、誕生日だから…ちゃんと言ってくれました!

『好きだ』とはなかなか言わない、普段は幸ちゃんからしか出てこない台詞を、真田に言わせる事で『どれだけ好きか』を現してみました。


HAPPY BIRTHDAY、幸ちゃん☆
誕生日アルバム発売も同時に祝して!!



ちょっと纏まり無いかな…な感じですが、お付き合いの程、ありがとうございました!!












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