地悪な、好き。そのA







軽やかに、
しなやかに、
大空を翔けるように、
円舞曲のステップを踏む。

紫闇色した世界に、
光り輝く星ひとつ。


僕と君の姿だけを、
何時までも照らし続けていた。







――――どう考えてもそれは、デートに誘われているだろう。


幸村は肩肘を付き、指先で机を叩き続ける。苛々度が頂点に達しているのか、眉間に寄せた皺の深さが物語っていた。
彼の隣で腕を組み、貫禄ある風体をしているが、背中は間違いなく冷や汗をかいているであろう真田は、口を噤み机の表面を眺めていた。

「だいたい、何で俺に相談してくるんだ。そういう事の手管は、柳の専売特許だろう」

耳の痛い台詞を聞かされている真田は、針の筵に座らされている様だった。
幸村の言葉は、目の前にいる銀色の髪を持つ男に向けられると同時に、こういう事には鈍重過ぎる真田にも向けられていた。

「せやけど……幸ちゃんしか相談でけんし、こんな事」

「あのねぇ、仁王。君には至れり尽くせりの紳士様が傍に居てくれるんだし、きちんとエスコート出来る男だろう? 任せておけば良いんだよ」

――――どっかの誰かさんとは大違いだよ、全く。

真田の為にもこの話は早く切り上げてやってくれ、と此処には居ない柳なら間違いなく言うであろう。
それ程に厳しい台詞を浴びせ続けた幸村は、徐に立ち上がり溜息を吐いて仁王を見下ろす。

「とにかく、紳士様に言われた時間には、遅れずに行く事。後は……成るように成るまでだ」

何時もの掴み所なく勝ち気な部分は完全になりを潜め、根底に隠していた意気地無しを詳(つまび)らかにして仁王は幸村を見上げた。こんなに頼りない目をしている姿を知るのは、此処に居る幸村と真田だけだった。

「そんな目をしてもダメだからね。これは君の事、君の為だから助言はしないよ。行こう、真田」

「――――う、うむ」

頼りにしていた人に突き放され泣きそうな仁王を幸村は、部室に置いて出て行ってしまう。
このまま放っておいて良いものかと躊躇った真田は、彼の気落ちを表しているかの様に、跳ねっ毛が萎れている銀髪をくしゃ、と大きな手で掻き混ぜた。

「す、すまん……俺の所為でとばっちりを食らわせてしまって……しかし、あれもお前を心底嫌って言った訳では無いのだから、判ってやってくれ」

不器用なりの真田の気遣いに一つ頷いた仁王は、ありがとさん、と俯いたままではあったが礼を言う。
部室の外で真田を待っている幸村は、苛々を隠せずにドン、と扉を殴ってみせた。

「早よ行きんしゃい」

「すまん」

荷物を慌てて担ぎ部室を出て行く真田の姿を、髪の隙間から見ていた仁王は、開かれた扉の向こうに居た友人のさりげない仕種に口元を緩めた。

「……幸ちゃんも、ありがとさん」

結局の所、強い言葉を投げつけても心配しているのだろう。
待っていた真田を迎え入れた幸村は、仁王に向けた背中側でピースサインを作っていたのだ。
自分が見ているかどうかも判らないのに、小さな優しさが嬉しかった。
ぐず、と鼻を鳴らした仁王は、意を決して立ち上がる。大きな伸びをして身体を寛げ、深呼吸を一つした。



紳士様との待ち合わせまで後、数時間。
初めての事に緊張と不安と……期待に胸を鳴らす仁王だった。







意地悪な、好き。そのA
20101210





すみません、しばらく続きます。
あと二つ位では片を付けたいです…頑張ります(T_T)

仕事がかなりキツイので正直、長く考えてられないです…持久力完全に喪失中。
でも、ちょっとずつですが進めて参りますので、宜しければお付き合いしてやって下さいませ。




飄々としていても、実はこんな部分があるんだよ…な仁王と、同じ立場に居る幸村の、親友からのエール…自分設定ですが、この二人が凄く仲良しである部分を書いてみました。
とばっちり真田(笑)←でも彼は、とっても男前なんですよ!!


さてさて次は、やっとこさっさ紳士様のお出ましとなります。



駄文で半端に終わってるお話でしたが、お付き合いありがとうございました。





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