番綺麗な、私








あなたの一番、綺麗なものを――――


私に下さい。








登校途中、柳生の姿を見付けた仁王は、銀髪をユラユラ揺らせて近付き、背後から声を掛けた。
一瞬、肩を上げて驚き眼鏡を掛けた柳生は振り向き、きちんとした朝の挨拶をする。それに応える様に、片手を顔の近くまで上げた仁王は、歩幅を合わせて会話に花を咲かせた。
その二人の様は絵になるのか、周りの女生徒達が騒ぎ始める。
常勝テニス部のレギュラーともあれば、学校の皆が知っている顔だ。加えて仁王の容姿とミステリアスな雰囲気が、一際目立つ存在だった。

「今日も仁王くんは、モテていますね」

「今日は……違うぜよ。お前さん誕生日じゃろ?」

綺麗な顔立ちをした仁王が、顎を持ち上げて柳生の視線を誘導する。眼鏡の奥に潜んだ瞳を動かしてみれば、遠巻きに二人の方を見ている女生徒と、その手にあるものが映り込む。
どうしたら良いのか判らないと、視線を送りながら、周りにいる友達らしき生徒と小声で会話をしていた。
「今日の柳生は、モテモテじゃのぉ」

含み笑いをしながら銀色の髪と肩を小刻みに動かして笑う仁王に、何度も背中を平手打ちされる柳生は、痛さで身体を捩る。
その仕打ちは、かわれている感じがして心地悪く、人波を華麗なステップを踏み校内へと滑り込んで行った。

「やり過ぎたの」

――――紳士は、照れ屋じゃき。
両手を頭の後ろで組み、また一つ小さく笑った仁王も、小走りで行ってしまった柳生の影を追い、校門を目指してのんびりと歩いて行くのだった。



***



「たくさん貰うたの、プレゼント」

教室に辿り着く迄に、両手では数え切れない程の人からプレゼントを手渡された柳生は、へとへとになりながら現れた。
プレゼント攻めに逢っている姿を横目に通り過ぎてきた仁王は、彼よりも先に教室に辿り着いていて、席で待ち構えていた。

「仁王くん、クラスが違うでしょう? 早く戻らなければ始業に間に合いませんよ」

「ほんとほんと、さっさと教室に帰ろうね〜」

「んなら、幸ちゃんも一緒に行くぜよ」

「柳生との仲を邪魔されたからって、俺にまで被害及ぼさないでよ!!」

「仁王、頼む……連れて行ってくれ」

幸村に朝っぱらから絡まれ困り果てていた真田が、これみよがしに便乗する。
もちろん、その態度が気に入らない幸村は、口癖になっている『真田のバカ!』と叫ぶが、仁王が首根っこ掴んで教室から引きずって行った。

「いろいろ大変ですね」

「お互い様だろう」

騒がしい二人が教室から出て行ったのを確認してから、柳生と真田は声を交わし、顔を一瞬合わせて吹き出した。

「誕生日だったな……おめでとう。今日は多分、練習にならんな」

礼と謝罪を一度に言う柳生へ、レギュラー全員がほぼ通る道だから仕方ないだろう、と苦笑いする真田だった。
そうこうしている内に、始業のベルが鳴り始め、真田は自分の席へ、柳生は机の上に広がったプレゼントを一旦ロッカーへと片付け、授業の用意を始めた。
携帯電話の電源を切らなければと、胸ポケットに仕舞っているそれを取り出す。開いてみればタイミング良く、一通のメールが飛び込んできた。
手早くボタン操作をし、内容を確認すると相手へ返信を出す。
手短な相手の文章に『判りました。後程に』と答えた柳生だった。



***



昼休み。
始まりを告げるベルが鳴るや否や、弁当箱を引っ掴んだ柳生は、走らないように、それでいて急いで教室を飛び出した。
短い文章で呼び出された場所へと向かい、廊下に溢れている人波を掻き分けて行く。
階段を昇り、重い鉄のドアを開けばそこは、羊雲が浮かぶ青空が見上げられる屋上だった。

「仁王くん、どちらにいらっしゃいますか? 返事をして頂けますか?」

口元に手を翳し、始業前にメールを送ってきた仁王の名を呼ぶ。
呼び出した割には未だ来ていない可能性は大いにある、と思いつつ声を掛け続ける。
すると、先程柳生が開いたドアの後ろに隠れていたのか、背後から声が返ってきた。
今朝、登校してきた時と同じ様に驚いた柳生は、身体を揺らして振り返る。
そこには、ほくそ笑み片手を上げて挨拶している仁王が、少し背中を丸めて立っていた。

「声、出ん程ビックリしたんか?」

「……全く。悪戯心にも程がありますよ」

敢えて驚いたとは言わない柳生の強がりに、また一つ笑って近付いた仁王は、さっさと食事を済ませようと固まっている彼の手を引き、日溜まりの中へ腰を下ろす。
向かい合って、言葉を交わしながら食べ物を口へと運び、空になっていた腹を満たして行くのだった。






「それで、私を呼び出したご用件は?」

「ああ。それな……」

何処までも丁寧な柳生の所作は食事にも現れていて、先に食べ終わってしまった仁王はコンクリートの地面に寝そべり、両肘で身体を支えあげ様子を見詰めていた。
声を掛けられた事で、のっそり身体を起こし正座をすると、襟を正して咳ばらいをした。
砕けて話すのが仁王だと認識していた柳生は、彼の楚々とした態度に釣られ、同じ様に正座をして向かい合う。
正面切って瞳が重なった刹那、顔を真っ赤にして仁王は俯き吃りを上げ、膝の上にある拳を握り締めた。

「その……あの……あのなっ……」

「落ち着いて、深呼吸して下さい。ゆっくり話して頂いて大丈夫ですから」

言われるがまま、その声量に導かれるがままに呼吸を整える仁王の姿に、天上から降り落ちる秋日の様な微笑みをして柳生は見詰める。
その笑みと光に護られて銀髪を輝かせた仁王は今日、目の前に在る彼に伝えるべく内に秘めていた言葉の封印を解く。

「誕生日のプレゼント……何が欲しい?」

突然の、仁王の台詞に一瞬、躊躇ったが柳生は人差し指を差し出し、鼻先へ突き立てた。
表情は何故か固く、冷めた視線を送って来る彼に、仁王は喜ばせるつもりが失敗したのかと、後悔の念に曝された。
柳生の醸し出す恐怖を感じたままに瞳を強く閉じ、顔を引いて彼から逃げる。

「そんなに怖がらないで下さい。あなたを食べてしまう訳では無いのですから……」

仁王の瞳に姿を宿さないことに安堵した柳生は、眼鏡を外して冷たくしていた表情を和らげて、小さな笑みを浮かべる。そして、鼻先へ突き立てていた指を、緩やかな動きで仁王の肌の上を滑らせて行く。
爪先だけで擽られ、粟立つ感覚が波紋を生み全身へと広がる。
身震いする彼の様子に柳生は、酷い事をしてしまったと、小さな声で謝罪する。そして、鼻先から唇を辿り、喉の稜線を行き過ぎて……滑らせていた指先は、目的の場所へと突き立てた。
「此処を……」

柳生の、息を殺して言う『此処』が何処なのか知りたくて仁王は、ゆっくりと長めの睫毛に彩られた瞳を開く。
そこは、仁王の左胸――――心臓の辺りを指差さしてあった。

「あなたの、綺麗な此処を私に……」

――――下さい。
そう言って柳生は、先程と打って変わり、切なげな表情で仁王に問い掛けた。
ふっ、と吐息を付き、目の前にいる彼とは対照的な顔をして仁王は、突き立てられている指に自身の指を絡ませる。

「さっきまでの勢いは、どないしたんじゃ。そんな言い方せんでも良(え)ぇ」

――――心だけやのぉて、オレの全部……柳生のモンぜよ。

思わぬ大胆な台詞を返えされた柳生は、頬を朱に染め息を飲んで怯んだ。
そんな彼の仕種に、ふふ、と微笑んだ仁王は柔らかな唇を寄せる。
先程とは逆に、柳生が顔を引くとそれを追いかけて……小さな音をさせた口付けを施し、永久の誓いを印し結ぶのだった。






一番綺麗な、私
20101024







すみません、遅くなりましたが柳生誕生日小話です。
実は、後半の絶対させたい箇所を先に仕上げてしまったので、屋上辺りからの下りから最後まで、繋がりが微妙になってしまって…未熟さ全開で申し訳ありません(T_T)



やっぱりベタに「私をプレゼント」なんですが、それを渡す側から聞き出す辺りが仁王なんかなぁ…と思うのでありました。


っつか、毎回書いていて思うんですけど…
うちの柳生さんは、ヘタレ過ぎて大変です。
スイッチ入ったら逆転するんですけどね…苦笑。




駄文、お付き合いありがとうございました…

改めて、はぴばーすでー柳生さんっ☆
仁王くんを召し上がってくださいませ(笑)








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