法使いの彼







酷く真面目な顔をして、全く似合わない冗談を彼は言った。

「俺は魔法が使える。何か、叶えて欲しい『願い』はないか?」

何処だか判らない場所で、俺と真田は向かい合っていた。
真っ白な世界に二人きり、同じ制服を着て視線を絡ませている。
俺の肩に手を置いて、少しばかり高かった目線を下げて来た真田に、ビックリして目を丸くしたまま言葉を失う。
無言になった呆れ顔の俺の瞳を見詰めて、本当に真面目な顔して真田は問い掛けて来た。

「冗談も程々にした方がいいよ、真田。笑えなくて困るんだけど……」

「冗談など俺は言わん」

「物凄い自信だね」

不思議な事を言う真田の顔を視界に入れるのも億劫になった俺は、要望を考える振りをしてふい、と視線を逸らす。
顎に手を宛てがい考えに耽る俺の姿を真田は、ただ静かに見詰めていた。




沈黙が流れる二人の間を、時が行き過ぎる。
長く考え込んでいたが、俺の中にある『願い』は、ただ一つ……だった。
こんな事、叶えられる筈も無いし、真田が魔法使いだとも、これっぽっちも思っていない。
だけど……
俺の願いは、俺の意志に逆らい、独りでに唇から零れ落ちた。

「真田が魔法を使えるなら……」

「だから、使えると言っているだろう」

「じゃあ、俺の病気を治してよ……」

――――このままじゃ怖くて、眠れないよ。



自らが抱える不安を零すとは、部長失格だな……
そう頭の片隅で思いながらも、愛しい真田の前では無意味な虚勢でしかなかった。
皆の前では言えない事も、真田になら言える。
真田なら、俺の荷物を支えてくれる。
根拠の無い身勝手さに、心の中だけで苦笑いをした俺は、出来ないだろう?と視線で物を言う。
質問の答えにふむ、と一つ声を出し、手を一つ叩いた真田。
すると、二人の足元から星の形をした、平たい板のような物が浮き出て来る。

「……な、何?!」

「しっかり捕まっていろ」

「わ、わかんないよ、真田っ!! こ、怖いっ!!」

「大丈夫だ、俺が後ろに居る。幸村は……唯、前だけを、前にある光りだけを見ていろ!!」


ふぉん、と機械的な音がしたかと思えば、急速にスピードが上がって行く星の乗り物。
風に吹き飛ばされそうになる俺は、星の先端にしっかりと捕まる。そして、風圧で浮き上がろうとする俺の身体は……真田が背中越しに抱き留めてくれていた。先程、彼が言ったように目の前には光の粒が広がり、集まり始めていた。
最初は小さな物だったが、徐々に大きくなっていく。その光は大きくなるに連れ、目を開けていられない程の輝きを放つ。

「しっかりと見ろ、幸村!! あの先に……お前の望むものがある!!」

そう言った魔法使いの真田は、俺の手を握ると力の限りで抱き締めた。
痛い、と思ったが、それ以上に真田の愛情が……背中から痛い程に、俺の身体へと流れ込んできた。




***



重く、重い瞼を緩やかな動きで開いて行く。
睫毛の先を揺らして、開かれた瞳に飛び込んで来たのは、何時もの白い天井と……

「真田は、本当に魔法使いだったんだ……」

俺の目醒めを待っていたのか、真田弦一郎の強くも優しい視線がそこには在った。







魔法使いの彼
20101010






こんな真幸、出来ましたけど〜(笑)
やたらとメルヘンチックで失礼しました。


柳赤でもですが……目を開いた時、一番最初に愛しい人の姿を、その瞳に映せるのは幸せだろうなぁ…な所から書きました。
幸ちゃんの場合は、病気→入院→手術なんで、そのまま目を開かなければOutですよね。
真田が幸ちゃんの夢の中へ迎えに、そして今の世界に連れ戻してくれたら良いな〜な思いです。

怖くて堪らないだろうけど、真田が居てくれるから大丈夫……そんな真田に依存する幸ちゃんでございました。


すみません、こんな真幸ですが…楽しんで頂ければ幸です。



お付き合いの程、ありがとうございました。





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