と、君と。






――――雨が……

室内に居ても判る程の雨音に、机に広げた資料へと視線を落としていた観月が顔を上げる。すると、暗雲を走り抜ける稲光と、激しく降り続く雨粒が視界に飛び込んできた。

「……まだ、残っているかも……」

スクールへ行き一足早く部活を終えていた観月は、部屋に立て掛けていた傘を手に寮を飛び出した。



***



降り続く雨が一向に収まる気配を見せない空を、部室の中から困った顔をして見上げる赤澤は、どうしたものかと考えていた。
濡れて帰るのも構わないが、公共の交通機関を頼り帰宅する彼には、それは駄目だと案を蹴る。
職員室で借りようかとしたが、部室から校舎への移動だけでも一苦労しそうだと、これも却下した。
止むまで待つのが一番かと結論に達した時、部室のドアが開け放たれた。

「やはり、残ってましたか」

「あれ?観月、何で?」

「何もありませんよ。赤澤、傘が無いのでしょう?僕のでは嫌かも知れませんが……使ってください」

赤澤の質問には答えず、手にしていた先程まで雨水を盛大に浴び、水の滴っている傘を差し出した。
それは、大柄な赤澤が差すにはとても華奢な作りでいて、色合いも観月らしい感じのだった。
一瞬、躊躇った表情をした赤澤は、やんわりとした断りの言葉を発する。

「ありがとう、気持ちだけ貰っとく。もうすぐ止むだろうから、ここで大人しく待つさ。止まなかったら濡れて帰るし」

濡れて帰る、と言った瞬間、観月は語気を荒げて無理矢理に傘を赤澤に握らせた。

「あなた馬鹿ですか?!近々、練習試合があるのですよ!濡れて帰って風邪でも引いたらどうするんですか!!貴重な戦力ですし、部長不在だなんてとんでもない!!」

――――無いよりはマシですから、恥ずかしいでしょうが使って下さい。

赤澤の躊躇った理由を見通していたのか観月は、試合を引き合いに出し、我慢して使って欲しいと説得する。
その顔つきと迫力に押され、不似合いな傘を手に頷く赤澤だった。

「では……気を付けて」

強引ではあったが納得した彼の頷きを見てふわり、と笑んだ観月は、そのまま部室を立ち去ろうと背を向ける。
刹那。
力強く腕を引かれてしまい、身体が揺れた。

「えっ?」

「お前、自分は濡れて帰る気か?」

「ええ。傘は一本しかありませんし、仕方ないでしょう。雨足が収まってきたので寮までの距離くらい、大したこと……ちょっと?!」

「じゃ、俺が寮まで送ってやる」

引いた腕を支えにして観月との距離を縮めた赤澤は、彼の肩を抱き込み引き寄せる。
好きな人の温度と鼓動を間近で感じた観月は、頬を朱にして俯き、口をつぐんでしまうのだった。





20100425



***




心配で心配で仕方ない観月と、どうにかなるだろうな赤澤でした。




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