の戴冠





真田が一人、部室で着替えを始めようとしていた時だった。
壊れてしまうのでは無いかと思うくらい豪快な音をさせ、勢い良くドアが開け放たれた。
耳障りな物音に身体を騒つかせた真田は、背にしていたドアへ身体を向き直り、怒鳴る為に息を吸い込む。しかしそれは、声となり口から発せられる事は無かった。

「真田ぁー、誕生日おめっと!!」

「副部長、おめでとうございますっ!!」

「きさっ……ごほっ!!」

開け放たれたドアから丸井と切原が、誰の所行かと目を見開き、怒鳴ろうとしていた真田を目がけ、飛び込んで来たのだ。
左右の腕に飛び付かれ驚いた真田は、声を飲み込んでしまい噎(むせ)返していた。

「大丈夫ですかぁ?」

「ばっ……大丈夫、な訳…あるかっ!!」

何時もは『鬼の副部長』等と、叱られるのが目に見えているのに陰口叩く切原が、こう言いながら左腕にしがみつき、不気味に可愛らしく笑っている。

「オレ達の祝いが嬉しくて、照れてるだけだろぃ」

「たっ……たわけが!」

右腕にしがみついたまま真田を見上げて笑う丸井の表情と、図星を付かれた言葉に恥ずかしくなり顔を背けた。

「良いじゃん、別に。素直に喜べばさ!」

「そうっスよ!」

まだ腕から離れようとしない二人を、何とかして引き剥がそうと真田は抵抗するが、すればする程に甘えて頬を擦り寄せて来た。
気色の悪い事をするなと喚き散らすも、我関せずの丸井と切原に良い様にされてしまうのだった。



***



「……で、今日が俺の誕生日で、二人が祝ってくれるのは良く判ったが、何故、腕から離れんっ!!」

ひと暴れしたものの、しっかりと腕に絡み付いて離れない丸井と切原に疲れた真田は、もう口だけで叱り飛ばすのも精一杯だった。
ぐったりとして部室にある長椅子に腰掛けていたが、左右にはずっしりとした重さがぶら下がっている。
真田が怒ろうとも笑い続けている二人は、掴む腕を前に突き出させて手の平を上向かせた。

「今度は、何だ?!」

「誕生日って言ったら、プレゼントだろぃ?これ、オレ達からだぜ!!」

「開けて見て下さいっス!!」

「……あぁ」

少し照れて礼を言う真田の手に乗せられたのは、小さな箱だった。
ただし、プレゼントと言われても、綺麗に包装されリボンがかかっている訳では無く、見た目は何の変哲もない単なる『箱』だった。

「開ければ良いのだな」

「そうっス!じゃんじゃん開けて行って下さい!!」

開けて行く?
切原のおかしな発言に、真田の頭は疑問符が飛び散り、不思議そうに箱を横から、上から、斜めからしげしげと見つめていた。
一向に蓋を開けようとしない真田に丸井は、脇腹を小突いて急がせる。口元は笑っている癖に、目元は苛立ちを見せていた。
この二人が一緒になってやっていると言う事は、絶対に裏側があるはずだ。
そう思うも真田は、わざわざ誕生日の祝いだと言い渡してきたのだから下心はあるまいと、彼等を信じて……箱の蓋取り去った。
すると、中から約束通りにまた箱が現れる。
ここからは根比べ。
一つ、また一つと箱が小さくなるに連れ、真田の不器用な指先ではなかなかと開かなくなり、こちらも苛々とし始めた。

「頑張れー!!もう少しでお宝に辿り着けるぜぃ!!」

「ぬ?まだ箱が出て来るぞ?!これでは、まるで罰ゲームの様ではないかっ!!」

「あっ!副部長!!オレ達の愛が伝わってないっスか?!」

「酷いぜ、真田ぁー」

「わっ、悪かった!判ったから泣くな!!」

箱を開き続ける真田の腕に未だ引っ付いている丸井と切原は、そこへ顔を埋めて泣き始める。
ただし、嘘泣きではあるが……
嘘泣きを見抜けずにいる真田は、取り敢えず二人を宥め、最後迄開かなければ腕を離して貰えないと漸く理解し、唯ひたすらに箱へ戦いを挑む。





そして、長い戦いの末……箱の終着点に辿り着く。
何故か息も絶え絶えになっている真田は、硬貨くらいの大きさになってしまった箱の蓋を、何とか爪の先に引っ掛けて開け放つ。

「お疲れぃ、真田」

「中に何か入ってるっスよね?見て下さいっ!」

「……ハズレとか書いてないだろうな」

「さぁ、そればどうでしょう?」

誰が作ったのか訊ねたくなるくらい細かな仕事をされていた箱の中身は、小さな紙切れが一枚入っていた。しかも、吹き飛ばしてしまえば塵と紛れて判らなくなる程、小さな小さなものだった。
鈍感な真田でも途中で気付いたか、出て来た物を目にしても、別段と驚きはしなかった。
しかし、これで彼が言ったように『ハズレ』等と書かれていた日には、丸井と切原は……どうなってしまうだろうか?
真田は、胸の内で仕置きの算段を考えつつ、吹けば飛ぶかの如くのメモを睨み付ける。薄らと文字が書かれてあり、目を凝らして表面を見つめた。
余りにも薄過ぎ、思わず虫眼鏡を要求しそうになる。しかし、かろうじて四つの平仮名が読み取れた。

「ハズレではないな……ゆ……ゆ、き、む、ら?幸村?!」

「おーいっ、ジャッカルっ、仁王っ、良いぜっ!!」

「やっとかよ、待ちくたびれたぜ」

「何時まで掛かっとるんじゃ、全く」

やっとの思いで辿り着いた答えは、『ゆきむら』と言う文字だった。
しかしそれは、良く知っている人の名であるが、別の『ゆきむら』かも知れない。更には、此処に居ないジャッカルや仁王の名まで出てきて真田は、混乱の極みにいた。
丸井が名を呼ぶと同時に、先程耳障りな音を立てて開かれたドアより、二人が現れた。
何時までも待たせるなと言わんばかりの表情をして、ずかずかと部室へ入ってきた。

「おめっとさん、真田。よぉ頑張ったのー」

「誕生日おめでとう!すげーな、これ……データ取るのも細かいけどさ、作業させても細かいよな……柳って」

撒き散らした箱の山を見つけてジャッカルは言い、不器用な真田を褒めて仁王は、その頭を子供にする様に撫でた。
仁王の手を払いたくとも、丸井と切原の所為で出来ずに真田は、怒りを顕にして頭を振り、止めろと訴える。

「まぁまぁ、そう怒りなさんな。頑張った真田には、誕生日のプレゼントをやらんとな」

――――柳生ーっ、柳ーっ!良いぜよ!!

仁王が、開いたままのドアに向かって、また此処には居ない名を呼ぶ。
すると、何かを抱えて部室へと柳生と柳が入ってきた。そして、その抱えていたものを、真田の宙に浮いている両腕に乗せた。
突然の重みと温度のあるそれに驚き、腕を引いてしまいそうになったが、丸井と切原に阻まれる。
しっかり支えろと言われた真田は、言葉の通り腕に力を込めてそれを抱き抱えた。
今まで彼の腕を不自由にしていた二人は漸く離れ、同時に真田の抱き抱えたものに掛けられていた布を取り払った。

「誕生日おめでとうございます、真田くん。こちらは、我々からのプレゼントです」

「おめでとう、真田。少々暴れたのでな、手荒な事をした」

――――お前の為だ、許せ。

柳がそう真田に告げ、皆に引き上げの合図を出す。
去り際に全員で『誕生日おめでとう』と改めて祝いを伝え、部室から消えて行った。
嵐が過ぎ去る様子を真田は唯、腕の中にあるものと共に、呆然と見つめていた。






部室に残されたのは真田と――――口元を封され、暴れない様に両手足を真白なリボンで縛られている、花冠を戴いた幸村だった。








20100516




***


かなりフライングですが真田弦一郎、お誕生日おめでとうなんです〜!!

すみません、ありきたりな幸ちゃんをプレゼントであります!!
立海メンバー全員出撃して頂いて、ごちゃっ!としてしまいましたが……彼らはきっと、こんな感じでバタバタしているのが良いな〜と思いましたので、そんなドタバタが出ていれば(笑)

幸ちゃん、一言もなかったけど…ごめんね。プレゼントだから我慢してね……
そして真田は、いじってナンボなんじゃないかと、改めて思ってしまいました(汗)




そんなこんなで、少し早いですが……真田、誕生日おめでとう!!






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