のうしろ





この手を、見ていて下さい

この背を、見ていて下さい

この姿を……

どうか見護っていて下さい






「珍しいですね。あなたが落ち着きを失っているとは」

他のメンバーが戦っていると言うのに仁王は一人、コートを離れ控室に閉じ篭っていた。
ふらりと立ち上がった彼の行く先を見ていた柳生は、なかなかと戻らない事が気に掛かり、同じ様にコートを離れ後を追って来たのだ。




仁王は、薄暗いそこに置かれていた長椅子に腰掛け、膝の上に両肘を預けている。少し腰を丸くして、組まれた両手で口元を覆い隠していた。
突然、開かれた控室の扉に驚いき、組んでいた指を解いて立ち上がる。しかし、やって来たのが柳生だと判ると、浮かせた身体を再び長椅子へ沈めてしまう。

「何ぞ用、あるんか?」

苛立ちを隠しもせず、涼やかな視線を更に強め、吐き捨てる様な口調で問うた。
開かれた扉から入り込む光で束の間、明るさを取り戻した控室だったが柳生は、鈍い音をさせて扉を閉じてしまい、元の薄暗い場所へと還してしまう。
酷い口調をする仁王の問いには答えず、腰掛けたままでいる彼の傍まで寄り、腕組みをして上から見下ろす。
眼鏡をして表情が読めず、以外と尊大な態度に見える柳生の姿を仁王は、上目使いで睨む。
しかし、その表情に覇気は無く、どちらかと言えば怯えている――――と表現するのが正しい空気を纏っていた。
揺れている心そのままを映し出す仁王の瞳を柳生は、組んでいた腕を解き掌で隠してしまう。

「……まじないでもする気か、柳生?」

「はい。一人コートへ向かう仁王くんが、必ず勝ちますようにと。そして……」

仁王の瞳を隠してしまっている柳生の掌は、ゆるりとした動きで下へと降ろすと共に、瞼も閉じさせてしまう。

「あなたの背中は、私が護る……と、祈りを捧げます」

そう告げると柳生は、目を閉じたままでいる仁王の、ラケットを持つ手を両の手で優しく包み込んだ。
その中にある、震えて少し冷たさを帯びる指先へ顔を寄せ、ふっ、と息を吹き掛けた。
今まで緊張の余り動かせないでいた指先が、柳生の息吹を受けて綻んだのだろう。熱を取り戻した五指を強く握り仁王は、瞼を開いて瞳に光を取り戻す。


不敵な笑みを口元に、鋭い眼光を目元に宿した仁王雅治が――――柳生の目の前に舞い降りた。


「お前さんが護ってくれるんなら大丈夫じゃ……俺は、上に行ける」

腰掛けた長椅子から立ち上がった仁王は、柳生に寄り添い『頼むぜよ』と背中を預けるのだった。







20100720






***



対不二戦前の心境なぞを書いてみました。

今まで背中を護っていてくれた柳生の居ないシングルスでの仁王は、こんな心境など無いだろうと思いますけど……そんな『一面』もあって良いかと書いてみました。

もちろん、今まで彼の背中を見てきた柳生は、すぐさま察するんだろうなぁ……とか考えた訳です。


へたれ仁王でスミマセン〜汗。







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