り雨







突然、降り出した雨に柳生と仁王は、鉛色の空を見上げ溜息を吐いた。
それは通り雨の様で、視線の先には雲の切れ間がもう見え始めている。

「この調子だともうすぐ止みそうですね。此処で雨が上がるのを待ちましょうか」

部室前の少しせり出した屋根の下、二人は肩を並べて雨上がりを待つ。
水気の所為で気温が落ちているのか、互いが肌寒さを感じているのか、自然に柳生と仁王は距離を縮めて寄り添っていた。

「見てください、虹が出ていますよ!」

もうすぐ止む事を告げている雲間から零れた光が、七色の虹を生み出している事に気付いた柳生は、その方向を指差し嬉々とした面差しをする。
眼鏡ではっきりとは見て取れない表情の柳生だが、仁王には声色と口元で喜んでいるのが良く分かった。

「綺麗じゃの……ちっさい時にあった事、思い出したき」

「虹を追い掛けて走ったけれど、いつまで経っても袂には辿り着けなかった……ですか?」

そうそう、と柳生の言葉に同調した仁王は、髪を揺らせて頷いた。
この話をきっかけに二人は昔話を、たくさんの思い出話に花を咲かせる。
その間も柳生は、屋根から手のひらを差し出し、降り落ちる雨の状態を気に掛ける。
雲の切れ間も見る見るうちに広がってゆき、虹もいつしか消えていた。




「もう、この程度の雨なら外へ出ても良いでしょう」

柳生の肌が感じる雨粒は、もう霧雨のようにさらさらとしたもので、滴る程に濡れてしまう事は無かった。
しかし、柳生は大丈夫だと言葉にするが、そこから一歩を踏み出す事が出来ずにいた。
仁王も同じように、空を見上げたまま動こうとはしなかった。

「濡れとぉ無いき、完全に雨が止むまで……ここに居(お)りたいんじゃが……えぇかの?」

「そうですね……ええ、そうしましょう」

先に思っていた事を口にした仁王の提案に、同じ思いでいた柳生はそれに応じる。




あと少し、もう少し――――と。
二人は、光が満ちて行く空を見上げたまま、寄り添った距離を更に縮めると、触れ合う指先を優しく結んだ。






20100223



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