何してるの
ふと、後ろから声をかけられ、振り向く。振り向いたそこには声をかけた張本人 がいつも見せる笑みを浮かべ立っていた。これは俺への笑顔だ。
こいつは笑顔を使い分けている。馴染みの人間への笑顔。敵への笑顔。味方への 笑顔。これを上手く使い分け人間の心を覗き見、えぐり、落とすのだ。何故そん な風に育ったかなんて俺の知ったところではないし、知ろうと思ったこともない 。ただ、それが楽しくて面白くて仕方ないようだ。
いつだっただろうか、こんな裏があると知ったら、人は誰でもあいつを外道だと 感じるだろうねと岸谷は言っていた。だが、あいつから言わせればそれが所謂愛 なのだろう。あいつが実際にそう言ったわけではないが、あいつがそういう奴だ というのは、少なからずとも知っているつもりだ。
何も答えず視線をもとに戻すと、無視しないでよ、と近寄ってきた。本当は寄る なと言いたいが、言えない。言えない事情が今の俺にはある。

「何って見ればわかるだろ」
「冷たいなあ  ねぇ、何の本?」

煩い。いちいち話し掛けてくるな。お前と話すと苛々するんだ。ムカムカする。
痛い。お前と一日中喧嘩しているあいつはこんな感情がいつまでも続いているの かと思い、少しため息が出た。どうしたの?なんて声にまた胸が痛んだ。こいつ と居ると辛くて嫌なことばかりだ。正直な話、こんなに辛くて嫌なことからは離 れてしまいたい。だが、さっきも言ったがそれはできない。その理由を勿論俺は 知っているが、お前やあいつはわかっているのだろうか。あいつはわかっていな いだろうが、お前はわかっているんじゃないか?俺はそう思っているから、こう やって何でもなさそうな顔をしている。気付かれてはいけないから、こうしてお 前と目を合わせないようにしている。あいつに後ろめたい気持ちがないと言った ら嘘になってしまうから、なるべく口をきかないようにしている。

「…何でもいいだろ」
「ふうん、まあいいけど」

ドタチンって本好きなんだね
そう付け加え、俺の隣に腰掛けてきた。やめろ。そんなことをするから、あいつ が傷付くんだ。あいつが傷付くとわかってやっていることも俺は何となくだが感 づいている。お前だって、本当は俺の隣なんかに座りたいわけじゃないくせに。 そんなことをするから俺はこのままお前を留めておきたいと残酷なことを考えて しまう。
俺は最近になって本を読む頻度が増えた。本を読みはじめた理由は、こんな残酷 なことを考えなくて済むようにだ。これは予想以上に効果を発揮した。本を読み 、その世界観に集中していると、他のことを忘れることができた。それに前から 本を読むのは嫌いではなかったから、調度いい対策なのは確かであった。しかし 、本を読み終えた後やさっきのように声をかけられたりすると、ピンと張られた 集中がブツリと切れてしまう。そうすると、また考える。日常の面倒くさいこと も残酷なことも後ろめたさでさえも、考えてしまうのは全て、

「それどんな話?」
「恋、の話」
「恋?恋愛もの?」

いっがーい、と笑うお前の横顔は世界の何よりも美しかった。
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