これは、また一つ、終わりを迎えるという事の重大さに気づく数ヶ月前、冬の
寒さに指がかじかんできた辺りの、話。


「だーかーらー、シズちゃんさえいなければいいんだって俺は言ってるんだよ、
ドタチン」

まるで、台風が過ぎ去ったあとの澄みきった青空のような、そんな声に、少しば
かり憤りにも似た興奮を交ぜて教室という場で言葉が響く。
発しているのは、学ランに赤シャツという格好の男、折原臨也。
彼はこの池袋という地で、この頃から既に名を広めつつあった男の一人だ。
対して臨也にドタチンと呼ばれたオールバックの男、門田京平は僅かに困惑の色
をのせた目を向けて、ため息をついた。

「うっせえなこっちの台詞だ臨也くんよぉ」

メキメキと机にヒビを入れながら、怒気だけを込めた声を紡いだ金髪の男、平和
島静雄は、大勢の人がいる手前か、いつもの様に机やら教卓やらを投げる気配は
見えなかった。

「まあまあ静雄、臨也の憎まれ口はいつものことでしょ?一々気にしてたら静雄
みたいな図太い人間でも胃に穴が開いてしまうよ?」

それを宥める様な声を出す眼鏡をかけた男、岸谷新羅の言葉に、静雄は若干(どこ
ろではない)怒りを浮かべながら、深く息を吐いた。

「もうお前ら喋るな、ややこしくなる」

三人の様子に呆れながら門田は漸く口を開いた。

そもそも四人でいつのまに冬休み、出かけることになったのだ、と門田は痛む頭
を押さえながら思う。
臨也はそんな門田らを見て、やや優越感にも似た笑みを浮かべ、周りを見渡した


「ま、いいや。シズちゃんには来れないようにすればいいだけだしー?で、どこ
行くの!」
「臨也てめえ…」
「まあまあ落ち着いて落ち着いてー」

今度は胃のあたりを押さえつつ、門田は眉を寄せた。
とりあえず俺は折角の休みにお守りは嫌だ。
だけれど行かなければ多大なる迷惑が周りにかかるだろう。
それだけはどうにか避けねば。

「静雄はどこか行きたいとこ、あるかい?」
「特にねぇな」

やや落ち着いたのか、興味なさげに呟く静雄に、新羅も何もないなあ、と笑って
続けた。
そんな二人を見て、臨也は口をつり上げた。

「仕方ないなあ、じゃあ俺が素敵なプラン、立ててあげるよ!」
「門田くん、何かあるかな行きたいところ」

興奮しながら声をあげた臨也をスルーしながら、新羅は門田に聞いた。
門田はやや間を開けてから、「いや、ないな」と返した。

「つか、誰かの家でも集まればいいんじゃないか?」
いつもの様に。

その門田の言葉を聞いて、先ほどスルーされた臨也は拗ねたように口を尖らせて
、それから、笑った。

「はいはいはーい!俺、ドタチン家がいい!」
「は、いや、臨也お前」
「ノミ蟲と同じなのは嫌だけどよ、門田さえ、よければ同じく」
「私も異論はないねー」

てことで門田くん、とりあえずこのあと、門田くん家ってことで。
にこりと笑って言われた言葉に瞬時フリーズしつつも、門田は口を開いた。

「冬休み中じゃ、ないのか…」

どこか呆れを含ませただけのそれではあったけれど、門田は薄く、笑っていた。
手のかかる奴らだと思いながら。
「言っとくが、散らかすなよ。とくに臨也と静雄!あと漁るな。なんもないから
…わかったか?臨也」
「…なんで俺なのさ」
「お前そういうことすんだろーが」
「あ、手ぶらなのも悪いし、俺何か持っていくよ、門田くん」
「…俺も」

そうしてワイワイと騒ぎながら、四人は教室を出た。
そういえば成績はどうだった?と誰かが尋ねる。ひとりはいつも通りと答え、ひ
とりは少し下がったかなと言い、もうひとりは何も言わなかった。

「あ、そういえば今日クリスマスじゃん」

また誰かが呟いて、ああ、と思い返す。
男ばかり集まるのはどうなのだろうかと思いながらも、口には出さずに。

外に出ると、風が冷たかった。
まさに冬を告げるかの様に、白い雪が、降り始めた。

おしまい
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