「最近、空ってその本ばかり読んでるよな」
「うん」
「難しい内容?」
二人で天体観測。
星が見えてくるまでの待ち時間、空の手の中には、一冊の本。
もちろん俺が読んだことがないもの。
「面白い?」
「もしかして翔、読んだことない?」
「うん」
「名前は?」
「知ってるよ流石に」
さらりと俺を馬鹿にしてくる。
こういう会話をすると本当に空が年上なんだと思う。
幼稚園のころからずっと一緒だったし、同じような扱いだった。
だから空が高校生、俺が中学生っていう差ができて、改めて気づかされた。
「この人は星の話を多く書くから好き」
「クラムボンしか分からない」
「あぁぷくぷく笑ったよってやつか」
「あと雨ニモ負ケズとか」
「…教科書でしょ?」
図星。
妹が良く色んな本読んでるけど、俺は読まないから。
意味深な文章ばかり書く人として覚えていた。
だから知らない。
空が好きそうな話を書くことも、空がその人が好きなのも。
「銀河鉄道の夜」
「え?」
「知ってるでしょ?」
「名前だけ」
「ジョバンニとかカムパネルラとか知らない?」
「…」
「全然だね」
そう言って空は読んでる本から栞を抜いて閉じ、俺に渡した。
表紙は星空だった。
「読んでみなよ」
「悪いよ」
「あげるよ」
「そんな、」
中々受け取らない俺の手に無理矢理本を乗せ、空は望遠鏡を組み立て始めた。
あげるっておい。
「本当悪いよ」
「大丈夫、全く同じの持ってるし」
「え」
「だから受け取ってよ」
そんなことするから惚れてしまうんだ。
アンドロメダの恋「ばーか」
「翔より全然頭いいよ僕」
勝てない。
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