伊勢型
空を飛びたかったんだ、海しか見たことがなかったから。でも分かっていた空を飛ぶことはできないって。でも、今度こそは空を飛べなくても空を飛ぶ誰かのためになろうと、腕を広げる。海を薄めたかのような色が瞼の裏に広がって、そうかこれが彼らの見た世界なんだと僕は知ったのだった。
* * *
涙が止まらないや。泣くなんてこと今までも、その前もしたことながなかったのに。これは運命かそれとも奇跡か。
「ずっと、待ってたんだから」 「待たせてごめんって」
周りの景色が変わっていく中で変わらないのはこの関係。
「おかえり、いせ」 「ただいま、ひゅうが」
僕らはずっとこうであり続ける。
陸→長
「おはよう」
ただその一言を一番最初にかけられるのが自分の特権なんだろう。心や体が他の人のものでも、この特権だけは譲る気なんてない。
「…おはよ」 「兄さんすごい寝癖、金剛さんに笑われるよ」 「えっ、今日デートなのに」
そう、例え自分のいない場所へ行ってしまったとしても、だ。
武陸
「陸奥、陸奥!」 「何回も呼ばなくたって聞こえてるよ…」
耳元で犬が吠えている。今日はなんだろうか。昨日は洋食を食べに行きたいと連れまわされた。一昨日は昼寝がしたいと近所の芝生が生えてるとこまで連れて行かれた。本当は構わなくてもいいんだ、という選択肢があるのに、それを選べない。頭の中で過去を見つめていれば、いつの間にか腕を取られ引っ張られていく。兄さんも同じように腕を取り走ることもあるけれど、それとは違う。強引でありながらほんのりと優しさを含むそれは、なんとなく心地よかった。
「海行こうぜ!海!」
振りほどけずにいる腕から伝わる体温に頬を預けた。
榛名と金剛
金剛を見てるとやはり英国人だと思わせるところがよくある。扉を開けるときに先に開けて全員が出るまでそのままにしておいたり。誰かが重いものを持っていれば持ってあげたり。でも一番は食事のときだろう。けれどそれに気付いているのはどうやら俺だけらしい。あの霧島も気づかない。それは料理を食べるときに箸じゃなくてフォークとナイフが出てくれば、やはりそちらの方が本能的に使いやすいのか目が輝くというところ。いつも兄としている金剛が、いつもより子供らしく見えてしまう一瞬の魔法。それを見るたびに、次はいつみられるだろうと何故か期待してしまう。けれどそれは早めることができる、自分の手で。カレンダーを見れば今日の日付の隣に小さく書かれた榛名の文字。それは今日の料理当番が俺だと言う印。さて、今日は何にしよう。ああ、でも比叡に見つからない位置に座ってもらわなくちゃ、と一人時計の針が回るのを楽しみに待った。
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