本当に知りたかったものは、一番自分に近いところにあるんだって、昔本で読んだんだ。旅の最後までそれが見つからなくて、最後の最後に見つけて終わるという子供向きの本だったってことは覚えている。そんなの子供騙しだと思っていたけど、そういうわけでもなかったんだね。


1人ぼっちの鬼遊び


転落防止用の柵の向こうには旦那ができる力を振り絞って俺に最高のショーを見せてくれている。それはそれは朝日の入る中の雨のように美しくて綺麗で、俺には宝石とか貴金属なんかよりも断然綺麗に見えたのだ。航空機を飲み下したそれに向かって旦那の求めていた少女が駆け出す。心の中で頑張ってと思うと同時に、俺もこれを見届けなくちゃいけないんだと決意。きっと旦那も苦しいのだろう。いくら今の敵だとはいえ、自分の愛した少女と敵対しなくてはいけないのだ。俺のために。申し訳ない気持ちもあるけど、これでようやく俺の追い求めていたものが見れるのだろうと思うと胸がうずく。


「旦那…!」


自分とは違い何も知らない一般人たちが野次馬として集まってくる。本当はこの人たちも俺の芸術作品にしたいけれど、そういうのはもうすべて後回しだ。旦那から目を離すのは少し惜しいけれど周りを見渡すと、旦那と同じようなサーヴァントとかいうやつらがちらりほらりと見える。さっきから少女と同じように旦那を傷つけるちょろまか動く牛に引かれる乗り物に、磁器のように白い綺麗な女性の隣で俺らの作品を見上げる青年、はるか上空で追いかけっこをしている金と黒の航空機。確かサーヴァントは7人だからそのうち6人がここにいるのだ。それほど壮大な芸術作品は俺の目に確かな潤いを与えた。


「旦那!本当COOLだよ旦那ぁ!!」


それでも宝石は砕けて潰されてしまえばただの石となるし、金属もひどく傷つけられれば輝きを失う。


強烈な破裂音。繁華街とも言えず普段はそれなりに静かな町の中エコーして耳に衝撃をもたらす。女性の甲高い悲鳴。聞きなれていたのは最後まで抵抗するような子供の断末魔ばかりだったから懐かしいと思ってしまう。野次馬の視線の方向が芸術作品から俺へと向かっては恐怖から驚愕の表情へと変わる。しっかりと磨かれた革靴やハイヒールが次々に一歩ずつ遠くなっていく。
何が起こったのだろう。注目を浴びるのは悪くないけど、それなら俺の作品へと向けてほしいなと思ったそのとき、腹にじわりと痛みがやってきた。見下げればそこには俺の求めていた鮮やかな赤があった。俺の追い求めていた赤。探していた赤。美しい赤。触ってみれば体温より温かなそれは俺の掌を彩った。


「灯台下暗しとはこういうことを言うんだなぁ」


今までのこれとは全然違う色は何より一番の芸術作品かもしれない。もう痛みよりも感動の方が勝っていた。とめどなく溢れる赤はシャツだけでなくパンツさえも濡らしてその下のアスファルトさえも染め上げていく。俺自身が芸術作品。
旦那見てよ旦那、今の俺はこんなに美しいんだよ!こんなところに俺の望みが紛れ込んでいたんだ!うれしさが溢れては漏れ出す先が見つからなくて言葉にできなくなってしまうよ!でもね旦那、たぶんこれで最後な気がするんだ。俺の人生も俺の作品も。そう、だから


「ありがとう、旦那」


脳へと衝撃が突き刺さる、耳元でエコーする発砲音はお祝いのクラッカーの音なんじゃあないかと思ってしまうんだって、これは戯言か何かだろうか。


きっと俺も本と同じように旅の最後に一番求めていたものを見つけたんだ。それならば、もう最高の幸せだ。この世界とこの世界で俺と旦那を結び付けてくれた神様に感謝しよう。これからの旦那にも神の加護がありますように。


『つかまえた』