双子が似ると言ったのはどこの誰なのだろうか。正直、なぜそんなことを言ったのか問いただしたい気分だ。


榛名の迷想


俺と霧島はそう、俗に言う双子だ。それなのにそこまで性格は似ていない。俺は金剛とかに面倒見がいいって言われるけど、霧島は無関心って言われる。俺はそこまで低血圧じゃなくむしろ普通なのに、霧島はすごい低血圧で朝全然起きられない。俺はどちらかと言えば醤油派なんだけど、霧島は味噌派らしい。なんでなんだろうか。扶桑と山城なんてお淑やかさまでそっくりじゃないか。


「というわけなんだ」
「いや、俺に言われても知らないし」


暇そうに縁側で昼寝をしていた武蔵に尋ねてみるが見事に振られてしまう。大和と武蔵はすごく似ていると思うのに。それでも少しの違いはある。武蔵の方がよくものを食べる。それはもうおいしそうに。それと大和の方が冷静に物事を考えるな、と思った。見た目はほぼ変わらないし、なんだかんだ仲悪そうで一緒にいる二人はそれぞれのことをどう思っているのだろうか。


「武蔵さ、大和のことどう思ってる?」
「えー?どう思ってるって言われても…ただの相棒?」


ただの相棒。その結論に至るまで十秒もかからなかった。もし俺が霧島のことをどう思っているか聞かれても余裕で十分は使ってしまうだろう。そしてそれでも結論には至らないのが目に見える。でもそう言われてみればそうだ、霧島も双子でもただの相棒でもあるんだ。
起き上がっていた体勢から元のようにごろりと寝転がる武蔵はそのまま空を見上げる。追っかけて俺も空を見上げると、真っ白な雲が右から左へとゆっくり流れていく。絵に描いたような夏の空だ。こんな空には美しいというよりも綺麗の方が似合うだろう。霧島なら何て言うだろうか。ふと、そこまで考えて疑問がわく。なんで今ここで霧島が出てきたのだろう。今隣で空を見ているのは武蔵だ。霧島はきっとまだ布団の中だ。あの人が尋ねてくるとき以外はいつもそうやって遅くまで寝ている。それなのに何故。そうやって頭を捻っていると武蔵が声を出す。


「んーと…、なんかさ榛名って考えすぎなんじゃね?もうちょっと脳の回転ゆっくりにしてみれば?」


言葉を1つ1つ考えながら言うように、まるで外国の言葉を話すようにして吐き出された言葉は俺の脳内で何回も繰り返された。考えすぎなのだろうか俺が。霧島なんていつも何かを考えてるような気がする。この間だって夜日記につらつらと何かを書き込んでいたのを覚えてる。たとえ双子だとしても人権を尊重して中身を覗くことなんてないけれど。そもそも俺らがそんな人権を主張してもいいのだろうか。というか俺たちの存在位置はどこなのだろうか。天皇さんやあの人よりも下なことは確かだ。では人は?人より上か下か。今ここで考えるべきではないのは分かっているけど結論が出るまではなんだかすっきりしないままだから、最後まで考えよう。


「しーわ」
「え?」
「眉間にしわが寄ってる。絶対何か考え事してだろ」


まっすぐ俺の瞳と瞳の間を指さす彼は何故か得意げに笑っている。その視線を追うように眉間に手を当ててみると思いのほかしっかりとしたしわがそこにはあった。人差し指と中指でそのしわをのばしてみるが、実際に伸びているかどうかは分からない。けれどそこでふと思う。霧島もよく考え事してるけど、しわはあっただろうか。なかったような気がする。指にはしわに戻る感覚が伝わるが、これはもしかしたらの大発見かもしれない。


「武蔵、もしかしてお前、」
「さぁ」


何事もなかったかのように指をひっこめ、武蔵は庭の方向へ体勢を変えてしまう。こいつは霧島以上に難敵なのかもしれない。ただでさえ霧島の性格もうまくつかめていないというのにも関わらず。確かに大和もこんな武蔵をうまく扱い切れていない。“ただの相棒”ってこんなもんなんだろうか。同じ相棒をもつ同士ではなく、今度は兄弟に聞いてみるべきかな。


「で、俺らのとこにきたわけか…」
「本当お前ら似てるようで似てないな」


二人ともそうだが、特に金剛が信じられないほどの笑顔でそこに正座している。どうしてこうなったのだろう。まさか二人に土下座することになるなんて。そうだ絶対二人の悪ふざけだ。変にのりがいいだけだ。俺はなぜ俺と霧島がこんなにも似ていないのか聞きたかっただけなのに。それなのに二人は、聞きたいことがあるんでしょ?土下座したら教えてあげる、なんて言ってきた。こんなのまるでお代官さまとその下僕みたいだ。今のこの二人にちょんまげでもつけたらすごい似合うんじゃないかとか、変なことを脳内が勝手に考える。霧島なら絶対あほらしいって言ってすぐこの場を立ち去ると思うのに。


「霧島の性格が掴みきれません先生…」
「まぁ確かにそうだね、でも掴みきる理由が分からない」


表情は変えずにいう金剛にそうですねぇと、わざとらしく比叡が続ける。比叡は金剛よりも身分が下の設定のようだ。そして比叡は周りと見渡してくすりと笑う。きっと彼らの頭の中では、周りにも観客がいる設定なのだろう。同じように見渡すと、そういうことか本当に観客がいた。その中には先ほど話していた武蔵もいる。さっき何故か二人に話が通じやすかったのは武蔵が先に話していたからかと納得した。どうだとも言わんばかりの笑顔でこちらを見てくる武蔵に心の中でありがとうと言う。


「いや、だって双子なのにうまく通じ合えなくてですね…」
「ふむふむ…むしろ双子だからなんじゃないでかね金剛さん」
「そうだね比叡…さん」


うまく乗り切れない金剛に比叡の口元が震えている。本当にこれは何なんだろうか。ためになる話をしてくれるような雰囲気だったはずなのにどうしたんだ。そしてついに限界だったのか後ろで誰かが噴き出したようだ。目の前の二人はというと、比叡は完全に俺から目をそらし、金剛は口元を手で押さえている。伊勢の笑い声と武蔵の畳を叩いて爆笑する声が聞こえる。宣言撤回だ、なんてことをしてくれた武蔵。ああ、なんだか俺までも恥ずかしくなってくる。しかし怒りの矛先をどこに向けていいやらと呆れてしまった。足はしびれるし、収穫はあっただろうか。
諦めて立ち上がると武蔵と目が合う。


「まぁ、こうやってわざわざ考えたりしないでいつも通りにすれば分かるんじゃないの」

声にまだ笑いが含まれているが、さっきの二人よりはとてもためになるのは確かだ。結局仰向けに転がって笑う兄二人を置いて、この場にいないまだ寝てる例の誰かさんのところに行こうかな。


きっと誰にも分からない、掴めない心を持つ俺の最愛の弟がとある誰かのみを愛し、尊敬していることは知ってる。それでもその心をつかみたくて、今日も俺は奮闘している。



「眠い…」
「もう寝んなよ…何度寝するつもり?」


霧島はふわぁと息を吐き出してから芋虫のように布団の中へと帰っていく。呆れてしまうけれど普段見せる大人っぽさとの差異が面白くて口許が自然に持ち上がる。きっとこれもいつも通りなのだろう。

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