Birthday


「今日、誕生日なんだって?おめっとさん」

そう言うとジェイドは浮かない顔で「…ありがとうございます」と答えた。

「…あんま嬉しくなさそうだな」
「…仕事がありますから」
「…そうか、邪魔したな」

遠回しに出ていけといいたげな言葉といつもより覇気のないジェイドの様子に、釈然としないながらもユーリは部屋から出た。

ロビーへ向かうとそこではガイとルークが何かを話していた。



「よっ。何してんだ?」

「ああ、ユーリ。いや、ちょっとな…」

「ジェイドの誕生日を皆で祝おうとしてたんだけど…断られたんだ…」

ユーリは部屋を出る前のジェイドの様子を思い出しながら、おそらく口実であろう今の状態を二人に告げた。

「あいつなら仕事があるって言ってたぞ」
「もう急ぐ仕事は無いはずなんだが…」
「やっぱ嫌なのか…」

ジェイドの様子について何か知っている事がありそうな二人の様子が気になり、ユーリは尋ねた。

「今までにジェイドの誕生日を祝った事は無いのか?」

そう言うとガイとルークは顔を見合わせた。

「祝いたいんだが…な」
「あんま喜んでくれねぇんだ…」
「喜ばねぇ?」
「…昔してはいけないことをしたって言ってて…詳しくは話してくれなかったけど…」
「してはいけないこと?」
「えっと…」

一瞬ためらうな態度を見せた後にルークは言った。

「それをやった事を凄く後悔してるって言ってて…それ以上はしらねぇ」

ルークの話を聞いてすぐにジェイドの顔がユーリの脳裏に浮かんだ。

「…わりっ!用事思い出した!」
「ユーリ!?」

背後から聞こえるルークの声を無視して再びジェイドのいる部屋に向かう。



部屋では、ジェイドが先程と同様に黙々と仕事をしていた。

「どうしました?」
「ちょっとな…」
「……ルークに何か聞かされましたか?」
「はっ、さすが鋭いな」
「余計な事を…」

眉を寄せたジェイドに対して、ユーリはごく軽い口調で言うと次には真剣な顔でジェイドに尋ねた。

「その後悔ってやつ、話してみないか?」
「あなたに話して何になると?」
「話して気が楽になる事もあるぜ」
「……はあ」

軽くため息をついた後、独白するようにジェイドは語り出した。

「…私がまだ幼かった頃に取り返しのつかない事をしたんです。自分の力に自惚れ、大切な方を…その時、真に私を気にかけていた方々を傷つけ…命を冒涜するような行いをしました」

そう言って目を伏せたジェイドはユーリにはいつものひょうひょうとした様子とは違い、泣きそうな幼い子供のように見えた。

「…いっそ私なんて生まれてこなければ」
「ジェイドは俺に出会わない方がよかったか?」

唐突なユーリの問いに一瞬驚いたジェイドだが反射的に答えていた。

「っ…!いえ、そんなわけでは」
「ならいいじゃねぇか」

わざとジェイドの言葉を遮るように続ける。

「俺は…ジェイドに会えてよかったと思ってる」
「っ…」
「だから…そんな顔すんなよ」
「しかし」

ユーリは何かを言いかけたジェイドの体を包み込む様にして抱きしめた。

「俺はジェイドが好きだ。過去に何があったとしても構わない。ジェイドだから好きなんだ」
「ユー、リ…」
「それじゃ駄目か?」
「…いいえ」

ユーリには少しその声は震えているようにも聞こえた。
その後は無言でジェイドを抱きしめ続けた。

そして五分程たった頃。

「ユーリ」
「なんだ?」
「…もうしばらくこのままでいて下さい」
「ああ。ずっとこうしててやるよ」
「はい」
「あと…誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」

今度は、とても柔らかい声で返事が返ってきた。


Happy Birthday Jade!!


「…俺ら忘れられてねぇか?」
「…多分な」