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紅梅のほころぶような

恋が芽吹く瞬間ってどんな時なんだろう?
例えば、危ないところを助けてもらったとか、その人のかっこいい姿を見たとか。
だけど、私にはそんなドラマや少女漫画のような可愛らしく、夢のような展開はない。
だって、気づいたら彼が隣にいて、気づいたら好きになっていたのだ。
いや、断じて私とその「彼」は幼馴染とか、小学校から一緒とかそういう関係ではない。
強いて言うなら高校の友達。
もっと言及すれば、ただのクラスメイトだった。

卒業して、なんか同じ学校の人いなくて淋しいなぁなんて思っていたら大学のサークルで再会して、今度は友達になって、そうしていつの間にやら好きになっていた。

「ねーねー苗字ちゃん」

名前を呼ばれて振り返れば、その「彼」、高尾和成がいた。
なんか満面の笑みを浮かべている。

「なに?どーしたの、そんな笑顔で」

こういう時の彼は何か期待している時だ。

「来週のサークルの集まり、行く?」

「うん、勿論行くけど」

「じゃあ、楽しみにしてるなお菓子」

ああ、そう言うことか、と思った。
日本のお菓子メーカーの野望のせいで広まったバレンタイン。
けれどその日には多くの女の子たちの夢が詰まっている。
この日までの一、二週間世間はピンク色の可愛らしいチョコ売り場がスーパーやデパートに設置され、世間の女の子たちはそれらから特に可愛らしい物を選んだり、お菓子作りに勤しんだりする。
そうして甘い甘いチョコレートと共に、自身の甘く切ない恋心を伝えるのだ。

「高尾って甘い物好きだったっけ?」

「んー、甘ったる過ぎなければ美味しいものは好き」

目をキラキラさせて、私の横を付いてくる。
私の気も知らないで。

「彼女いるんじゃないの?作ってもらえば?」

「いねーっつってんじゃん。つか、これ何回目だよ」

くくくっと喉の奥で鳴らしたような笑い声。
笑いのツボが浅い彼はこんなことすら面白いらしい。

「だっていそうじゃん。絶対隠してそう」

「やだなあー。俺そんな性格悪くないって」

ケラケラ笑う高尾。
人当たりはいいし、面白いし、ムードメーカー的存在でそれなりにイケメン。
しかも気づいたら私のそばによくくるようになった。
そうしてはやれ弁当のおかずをよこせだのやれお菓子をくれだのやれ教科書を見せてくれなど言ってくるのだから、達が悪い。
私は別に構われるような事をした覚えはないし、特別可愛いわけでもないし、人当たりがいいわけでもないのに。

「ほんっと、何がしたいんだか…」

「んー?苗字ちゃんともっと仲良くなりたい」

ぼそっと聞こえないように呟いたつもりが聞こえていたらしく、そんな返答が返ってきた。

「今でも充分仲いいでしょ」

「お、仲いい認定してくれたの初めて」

そーだっけ、なんて言いながらサークルの活動場所へ足を運ぶ。

「けど、さ…」

珍しく真面目なトーンに彼の顔を見れば、その顔はほんのりと赤くて…

「もっと、違う関係に、なりたかったり」

なんて小声で言う。
そのたった一言さえ、私の心を暴れさせるには十分で…

思わず足が止まってしまった。

「なーんつって…って苗字ちゃん?」

顔に熱が集まる。

ねえ、高尾。
私、貴方の顔ちゃんと見ていたよ。
少し、赤かったよね。
ねえ、貴方のその言葉に私は…


期待して、良いのでしょうか?


私を見た高尾も釣られるように顔を染めて…

「バレンタイン待ってるぜ」

と笑って活動場所へ走って行ってしまった。

ふと横を見ると、まだ硬いはずの紅梅の蕾が少し綻んだように見えた。



紅梅がほころぶような


ほんのり赤い貴方の顔を私は忘れない。


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企画「水底の庵」さまに提出





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