月の浮かぶ水面から 外伝

おまけ

少々性描写が入っております。
苦手な方は閲覧をお控えください。

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京の夜…

全てが暗い中、一つだけ輝く場所がある。

それは島原。

夜の街。


得意の笑顔を貼り付けて、好きでもない男に酌をする。

「源氏名太夫」

しこたま飲ませて、布団を敷いた部屋に男を誘導し、身体を開いた。

男が私の身体を撫でまわす。
気持ち悪い。

「あっ、せんせっ…うち、せんせと…んっ…一緒に…なりたい…」
と気持ち良さそうな声を適当に出しそれらしい台詞を言えば、男は嬉しそうな顔をする。

なんと単純なものか…
そうして酔っ払いは私の欲しい情報をまたベラベラと喋る。


行為が終わると、標的である男は鼾をかいて寝始めた。

それを確認し、着物を再び纏い、部屋をするりと抜け出した。

自室に駆け込んで、後処理を済ませ、汚い指を懐紙で拭う。

「高尾」

私が呼ぶと同時に襖が開いた。
その顔に浮かぶ表情は怒りとも悲しみともとれる。

「標的が吐いた。鴨川付近の芦田屋という旅館に尊攘過激派の浪士が集まっているらしい。」

屯所へ伝えてくれ、という前に言葉が止まった。

いや、言えなかった。

柔らかいものが私の唇を塞ぐ。

それが高尾の唇だと気づくのに時間はかからなかった。

口づけはどんどん激しさを増し、高尾の手が私の身体を撫でまわす。

先程までは不快でしょうがなかったそれも、何故か心地よい。

やがて唇が離れると、彼は私の肩に顔を埋めた。

「俺、やだ。名前さんが他の男とこんな事してるなんて想像したくねえ」

そうして震えているのは、私を思ってか、はたまた独占欲か…


けれど、それはどちらでもいい。


少し、嬉しくなった。


「ごめんな」
私はみんなの役に立ちたいんだ。



そう言えば、知ってる、と返された。

少し弱々しい姿ですら、愛おしい。

私は高尾の身体を優しく抱きしめた。

細身に見えるが、その身体にはしなやかな筋肉がしっかりついている

男の、身体だ。

その途端、私の欲望が燃え上がる。


「和成せんせ?」


先程の男の名前など、聞いたときから覚えてはいても呼んでやる気などなく、ただ先生と呼べばいいと思った。

けれど、彼は…

彼だけは…

「和成せんせ、うちを、抱いて?」

布団もない、畳にそのまま押し倒される。

悲しげなその瞳の中に、愛しさと暖かさと情欲が見えた。

きっと私も同じ瞳をしているんだろう。

そんな品のない目を見せたくなくて、私は目を閉じて彼の口付けを受け入れた。


堕ちる

一人にしないと言ってくれた


俺が守ると言ってくれた

優しい、こいつの中に…


「あっ、かず…な…り…っ」


「名前っ…」

「「あいしてる」」


私は堕ちる。


私も、こいつを…

一人にはしない。


私が死ぬとき…


それはきっと彼が死ぬ時。

一人きりの寂しさはもういらない。


月の浮かぶ水面から
光の見えない深海へ



貴方と共に、沈んでゆこう





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