恋が始まる瞬間を夢に見て
大学生パロ
ネオンの光が点り始め、太陽がビルの陰に姿を隠す。オレンジの光がビルに反射して綺麗だった。
「うわっ、さっむ!!」
隣で和成先輩が肩を震わせた。もう11月も終わりなわけで、そろそろ手袋やコートが本格的に必要になりそうだ。今日は帰ったら手袋を出そうと心に決めた。
「あと2日で12月ですもんねー」
吐く息も白くなってきた。昨日運良く購入できた1000円のブーツの存在がありがたい。オープン記念セール万歳。確か元値は3580円だ。
「あー、くそ、俺もブーツほしいわー」
和成先輩にいいでしょー、と本日3回目の自慢をしたら女の子ってズルいよなーと返された。可愛いブーツ沢山あるし、あったかそうとのこと。確かに否定はしない。足元があったかいのは本当に助かる。冷え性なんて可愛らしく少女漫画チック(友達曰く本当に辛いからこれを言うと、馬鹿にしないでと怒られるがそんなのは私の知ったことではない)には縁がないが、寒さには弱いのだ。
「先輩これよりオシャレになったらただのチャラ男です」
「え、うそ」
「嘘です」
てへぺろ、と最近流行りの語を可愛らしく言ってみたらデコピンされそうになった。お返しに、ホストになっちゃいますよ、と言ったらマジ傷つくからやめてと返された。へえ、傷ついたんだ。
「まあ、あれだもんな。名前はNCCを東京タワーだと思ってたんだもんなー」
もう、このネタで5回はいじられている。言っておくけど、かなり昔の話だ。うーんと今から5〜6年前。いや、それでもかなり恥ずかしい。
「もういいです!!先輩のバカっ!!」
ちょっと頬を膨らませてみた。
ああ、穴があったら入りたい。面白話ないかななんて思って話したら、笑いのツボが浅い先輩はもうずっと爆笑で。嬉しいけど、恥ずかしくて。
「悪い悪い、拗ねんなって。くくっ…」
「あー!!また笑った!!」
悔しくてまた頬を膨らませた。もういいさ、困らせてやる!!なんて、思ってたのに…
「ほらほら、そんな膨らませてたって柔らかくなんてなんねーぞ」
そう言って、私のほっぺをツンツンする。
ああもう、やめてよ。
頬が赤くなるの、隠せない。
「や、やめてくださいよ!!子供じゃないんだから!!」
「俺は柔らかけーと思うけどなあ」
「他の女の子はもっと柔らかいんです!!知ってるでしょ!?」
そう言って、またそっぽ向く。
知ってるよ。
先輩プレイボーイだもん。
それに、先輩は…
「そういえば先輩、成人式は袴ですか?」
「ん、そーそー。」
「へえ!!先輩似合いそうですね。」
「おう、さんきゅ。そーいや、この前あいつも成人式の前撮りしててさー、写真見せてもらったんだけどすげー綺麗で…」
あ、振る話題を間違えた。最悪だ。なぜわざわざ自分から傷付きにいったのだろう。
そう、先輩は片想いをしてる。
そして、私も片想いをしてる。
お互い叶わないと分かっているのに。
一度見せてもらった写真はすごく綺麗な女の人と、見たことないくらい緊張して、けど幸せそうな和成先輩が写っていた。もう、望みはない。そんなこと分かっているのに、この片想いをやめられず、今年で1年になる。友達は皆新しい恋を始めればいいと言った。何度も合コンに行った。けど、新しい恋は見つけられなかった。先輩以上の人なんていなかった、
「あっ…」
先輩の声が聞こえてそっちを見ると、綺麗な女の人が男の人と手をつないで歩いていた。あ、あの人…
そう思った時にはその2人は人ごみに消えてしまっていた。
「せん、ぱい…?」
見上げた先輩の顔は、いつになく悲しさと苦しさで切なそうに歪んでいた。
ねえ、先輩。
そんな顔、しないで。
「帰ろっか」
無理矢理笑う先輩を見て、泣きそうになった。そっか、好きな人に好きな人がいて、好きな人が振られたら、嬉しくないんだ。こんなに、苦しくなるんだ。
私も、また失恋したみたいだ。
思わず、涙が込み上げて、それでも今本当に泣きたいのは先輩だから…
だから…
「もう少し、一緒にいたいです。」
恋が始まる瞬間を夢に見て
結局またあなたを好きになるのは分かっているの。そしてまた、叶いもしない夢を見る。
声が震えていたけれど、ちゃんと言えた。
怖くて顔は見れなかった。
「ははっ、情けねーな、俺」
そう言って笑った先輩の頬に涙が伝った。
苦しくて、切なくて、私は先輩に抱きついてその背中に手を回した。
傷ついた心を、少しでも癒せるように…
私の想いが、言えない思いが少しでも伝わるように祈りながら。
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企画「僕の知らない世界で」様
第34回「嘘つきな笑顔」へ提出
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