もう一度
負けた…
よりにもよって、黒ちんに。
なんで?
なんで?
俺のが絶対強いじゃん。
才能あるし、負けるわけないじゃん。
なのに、なんで…
もう一度それから、室ちんや雅子ちんに色々言われたけど、俺はただやめるっていった。
もうやめる。
バスケなんてやめてやる。
だって、疲れるだけだし
なんか、今苦しいし…
もう、こんなもんやりたくない…
宿に戻って、部屋に篭った。
飯だって、何回か声をかけられたけど、行かなかった。
そーすると誰も来なくなった。
下手になんかされるより、ずっとこっちのがいーや
ま、どーせ俺、すぐやめるし。
にしても、腹減ったなぁなんて思った時だった。
「紫原くん」
ノックの音がして控え目な声が聞こえた。
「お腹空いたんじゃないかと思って、おやつ持ってきたの。食べない?」
その声はマネージャーの名前ちん。
おやつに詳しくて、よく色んなのを買ってきてくれる。
まあ、それもこれからなくなるんだと思えば最後くらいいーかなあなんて思って部屋のドアを開けた。
「夜遅くにごめんね」
そう言って俺を見上げて笑った名前ちんの目は真っ赤だった。
両手には大量のお菓子が入った袋を持ってる。
「ふーん」
名前ちんの持ってた袋の一番上にあったまいう棒を取った。
うん、俺の好きな味
「さすがだよねー名前ちん」
そう言うと、名前ちんはえへへっと笑った。
「ほら」
袋の中からまいう棒をもう一本だして名前ちんに渡した。
「へっ?」
いつもならしないけど、なんとなくまだここにいてほしかったから。
「食べないの?ならもらおーっと」
そーいってまいう棒取ろうとしたら、ダメダメって慌てて言って机の上にお菓子の袋を置いた。
そして俺に渡されたまいう棒を小さな口に入れる。
しばらく無言だったけど、急に名前ちんが口を開いた。
「紫原くん、やめちゃうんだ」
隣を見ると、名前ちんは泣き出しそうな顔をしてた。
なんでか、胸がもやもやした。
「だって負けたしー。あんな辛くてめんどくさいもの、もーやりたくない。バスケなんかもーやんない。」
そう言ったら、名前ちんの目から涙が零れた。
でも、すぐに
「そっか」
ってそれを隠すように笑った。
こーやって泣き出したり、それを隠そうとしてみたり。
いつもの俺ならめんどくさいって思う。
なのに、なんか今日は違う。
確かにめんどくさい。
なんかそのせーで余計に苦しくなってきたし。
けど…
「あたし、もっと紫原くんのバスケみていたかったなぁ。」
そー言った名前ちんをぎゅーってしたくなって、気付いたらしてた。
確かに、バスケはめんどくさいし、練習辛いし、怠いけど、
負けて、なんか物凄く苦しかったけど、でも…
名前ちんのこんな顔見る方がもっと苦しいから…
だから…
俺、やってみよーかな、バスケって言ったら
彼女はポカンとした後、笑ってこー言った。
大丈夫、紫原くんならできるよって
笑った顔に、なんでか知らないけどまたぎゅーってしたくなって、もう一回名前ちんをぎゅーってした。
二人が自分の気持ちに気づくのはもう少し先。
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