はじめまして、君の世界

あなたは、超能力を信じるだろうか?

あなたは、私がそれを持っていると言えば信じてくれるだろうか?

答えは否だ。

そうでしょう、真太郎。


はじめまして、君の世界




それが分かったのは突然だった。

小さい頃は偶然だと思っていた。

例えば、楽しみにしていた遠足の前の日。

どんなにざあざあ降りの雨予報がでていようが、私が晴れて欲しいと願えば、その日は眩しいほどの快晴だった。

逆に、体育が苦手なサッカーのテストだった時、雨が降って欲しいと思えば、それまでどんなに晴れていても体育の時間にはバケツをびっくり返したような雨が降った。

ほぼ必ずと言っていいほど、私の思い通りになる天気。

小さい頃は嬉しかったが、成長に伴いそれは恐怖となっていった。

そして、決定的に私は人と違う事が分かる瞬間が今まさに訪れていた。

川で遊んでいた小さな男の子。

その子が足を滑らせて雨上がりの急な流れの川に落っこちたのだ。

「勇太!!」

子供のお母さんの声と共に私は持っていたバックを投げ捨て水の中に飛び込む。

水泳は得意だったが、流れが速くて追いつけない。

その時ふと、願った。



この水流が遅くなればいい、と…



するとみるみるうちに流れは緩やかになって行き、男の子と私の距離が近づく。

すぐに男の子を抱き上げ河辺に向かった。

そしてグッタリした男の子のお腹を押して水を吐き出させる。

「ゲホッゴホッ」

男の子は水を吐くと、うっすらと目を開けた。

「勇太!!」

男の子の母親が駆け寄ってくる。

目尻に涙を貯めていた。

「とりあえず水は吐き出させましたが、一応病院には連れて行ってください」

「はいっ…ありがとうございましたっ!!」

母親は私に一礼をすると、近くにいた父親が子供を抱え上げ、本当にありがとうございました、と言って車の方へと向かって行った。

ふう、と一つ息をついて安堵。

「くしゅっ」

少し寒い。

当たり前だ。

いくら暖かくなってきたと言えど、まだ春先。

ああ、早く制服乾かないかなぁ。

クリーニングも出さなくちゃだよなぁ。




突如、私の身体に張り付いていた制服の感触が消えた。

髪から滴っていた水滴もない。

「え…?」

慌てて洋服を触る。

乾いていた。

飛び込む前と同じように…

ハッとして川を見る。

その水流は飛び込む前と同じように速い。

けれど、確かに…

私が遅くなればいいと思った時は確かに遅くなったのだ。



身体が震える。

どうして?

どうして、こんな力があるの?


怖い…







「名前っ!!」

怒鳴り声と肩に掛けられた手でハッとして我に返る。

「しん…た…ろ…」

声と手の持ち主は緑間真太郎。

私の幼馴染。

「行くぞ」

彼は手を混乱している私の手を引いて立ち上がらせると、放り投げてあった私の鞄を拾ってズンズンと進んで行く。

日本人にしては規格外の身長の彼と女子の平均身長程度の私では背が違いすぎて小走りのように彼の後ろを歩く。

連れてこられたのは、私の家の前。

「鍵を寄越すのだよ」

私が言葉に従って鍵を鞄から出すと、彼はそれで扉を開ける。

そのまま、まるで自分の家のごとく私の手を引いて私の部屋へと導く。

私の家にこの時間親がいない事もなど、計算済みだ。

パタン、と音がして扉が閉じた。

それとほぼ同時だったか…

「お前、何か隠しているな?」

真太郎は私を見つめる。

「へっ、なんも、ないよ?」

へラリと笑った。

こんなの、真太郎は信じないでしょう?

超能力とか、科学的根拠がまったくないものだもの。

なら、誤魔化すしかないじゃない。

すると、真太郎ははぁとため息をついて…

「全て見ていた。お前が子供を助けに川へ飛び込んだ所も、急に川の水流が緩やかになった所も。名前、服はどうした?川へ飛び込んだのに、何故濡れていない」

言い逃れは、できなかった。

泣きたくない。

ばれたくない。

けれど、こんな時だけ無情にも涙は零れていく。

「ふっ…う…」

唇を噛んで、下を向いた。

暴露てしまった。

気味悪がるだろうか、恐れるだろうか?

けれど、これだけは言える。

私は、一人大切な人を…


ふと頭に触れた温もりに顔を上げた。

「よく、耐えていたな」

そこにあったのは、かつて私が悔し泣きをした時に慰めてくれた彼と同じ顔。

「怖かったんだろう?」

私がオレンジの彼の学ランの裾を掴むと、私の頭を撫でていたその手が控えめに私の背に回されて優しく引き寄せられた。

「し…んたろ…」

「安心しろ。こんな事で気味が悪いなどと思ったりしないのだよ。」

「そ…か…」

「それに俺は常に人事を尽くしている。いつかはお前のその奇妙な力も解明してやるのだよ」

「はは…たのもしーや…」

真太郎の体温があったかい。

「もし、この妙な力のせいで嫁の貰い手がいなくなったら、俺が貰ってやるのだよ」

「はは」

「ありがたく思え」

「うん」


ゆっくり彼の背に手を回した。

涙は止まった。

ああ、ようやく私はこの身体を受け入れることができそうだ。

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