サイズ違いの恋人
彼は、背が高い。
身長はキセキの世代でも上から二番目。手足はスラリと長く、綺麗な緑の目をひきたてる長いまつげ。成績優秀で、密かに女の子たちからモテているのだけど、ちょっと変人で人を寄せ付けないから声をかけられないのだとか…
「しんくん」
朝の満員電車の中…
くいくい、と彼のワイシャツの裾を引っ張った。
なんでもできてかっこよくて背が高くて…
それに対して私はなんとか秀徳高校に入れたものの、成績はいつも中の下くらいで、運動は全くと言っていいほどできない。かと言って容姿が可愛いわけでもなく、極めつけは身長。私は150cmで世間からみても超チビなのだ。
彼の顔までおよそ40cm。背伸びしたって、全然届かない。
「どうしたのだよ」
「あ、うん、なんでもないや」
恥ずかしくて聞けない。
私でいいの?なんて…
告白したのは私だった。
小、中と一緒で、なんだかんだおっちょこちょいな私の面倒を見てくれる実は優しい人。桃ちゃんに、高尾くんに背中を押されたものの、玉砕するとしか思えないまま告白した返事はまさかのオーケー。
心底ビックリしたものだ。
そうして付き合うようになって二ヶ月。彼と会うのは毎朝の登校と下校のそれぞれの45分。毎日会えるだけ他のカップルよりマシなのかもしれないが、もともと家が近かったからこれはほぼ日課みたくなっているものなのだけど…
自信なんてもともとあるわけではないが、それでも付き合う前と何ら変わらない距離。手を繋ぐこともなければ、き、キスなんて、もうもってのほか。
「顔が赤いぞ、熱でもあるのか?」
「えっ?」
気がつけばしんくんの大きな手が私のおでこに触れていた。
「む、少し熱いな」
「え、や、そん、なことない、です…」
触れた手は確かに少し冷たくて、心地よい。けれどそんなことよりもおでこにある熱が恥ずかしくて、嬉しくて体温は上がるばっかり…
「嘘を言うな、どこか具合が悪いのだろう?」
「だ、大丈夫!!これは、体調が悪いわけじゃなくて、そのっ…」
わたわたしていると、クーラーの効きすぎた車内にいたせいか、くしゅん、とくしゃみが一つ。
「やはり風邪ではないか」
まったく、と悪態をつきながら彼は鞄の中から秀徳カラーであるオレンジ色のジャージを取り出した。
「着ておけ。どうせお前のことだから止めても学校へ行くのだろう?」
ならせめて暖かくしておけ。
そう言って満員電車の中私にジャージを羽織らせてくれた。
「う、うん」
彼のジャージは私には大きすぎて、袖から手を出すためには何重にもまくらなければならない。
けれど、ふんわりとしんくんの匂いがして、まるで大好きな彼に抱きしめられてるみたいだ。
「しんくん、ありがとう」
彼を見上げると、何故か彼の頬も赤く染まった気がした。
サイズ違いの恋人
結局二人とも鈍感なんです。
そのあと、名前の背中に彼の太い腕が回ったのを目撃して高尾は一人和んでいた。
企画「Symphony」様
第八回Uniformに提出
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