告げられなかった愛をもう一度 前編
大河ドラマ官兵衛を見て突発的に書きたくなったお話
戦国時代くらい
かなり適当
ヒロインはさっちんと虹村先輩の妹。
因みにさっちんは姫様、虹村先輩殿様
故にさっちんの苗字は桃井ではない
流血注意
ただの自己満足
okな方のみどうぞ
「青峰殿…」
私が声をかけると、彼はいつも太陽のような笑顔を見せてくれる。
「名前じゃねぇか」
彼はこの国の誇る七人衆の一人、青峰大輝。
それは槍の使い手であるその青峰殿と、火神大我殿。
薙刀の使い手緑間真太郎殿、変わった剣術を見せる紫原敦殿に弓の名手でありながら刀も自在に操る黄瀬涼太殿。
軍師でありながら剣術の腕では紫原殿にさえ優ってしまう、赤司征十郎殿。
そして、暗殺の達人黒子テツヤ殿。
彼らのお陰でこの国は守られていると言っても過言ではない。
「御指南、お願い致します。」
いつもの通り、私が頭を下げると青峰殿は苦笑して、お前が頭下げんなよ、と私の顔を上げさせる。
「お前、一応姫様だろ?」
「けれど、青峰殿は剣術の師匠です。それに私は女を捨て、家臣となった身です。立場は青峰殿とたいして変わりません。」
私が必死になって言うと、青峰殿はそうか?と頬をかいた。
幼い頃より彼とは仲が良く、一時は敬語を使われた時もあったが頼むからそれはやめてくれと懇願している。
「そーいや、さつきは元気かよ」
「ええ、元気です。けれど…」
そこで、口ごもる。
「あ?」
不思議そうな彼。
本当、こういう事に彼は疎い。
私の表情から察して欲しいのに。
「隣の国の高尾様のご嫡男と縁談が決まりました。」
彼が目を見開く。
それから、顔を背けた。
ああ、こんな顔見たくなかったのに…
「そーかよ」
もうそんな年か、と青峰殿はまるで彼女の目付け役のような事を言った。
「はい」
春風が、優しく私達のそばを通り抜ける。
本当なら、私が行けば良かったのだ。
この話が出た時、私は父にも兄にも姉にも私が行くと申し出た。
けれど誰も首を縦に振っては下さらなかった。
挙句の果てには「お前のようなじゃじゃ馬は嫁になど出せんわ」と父に怒鳴られた。
その時、初めて女を捨てた事を公開した。
私が嫁に行けば、青峰殿も、姉様も幸せに暮らせたのに。
きっと、二人で喧嘩しながらも仲の良い夫婦になったことだろう。
ふわりと何かが頬を掠めた。
その正体を追えば、姉と同じ桃色の花弁が春の風に舞ってふわりふわりと散っていた。
「名前」
青峰殿の声は震えていて、彼を見たら今にも泣きそうな顔をしていた。
「剣の御指南はまた今度ということで。失礼致します。」
それだけ言って私は駆け出した。
彼の口から責められるのではないかと怖かった。
何故私が嫁に行かないのか、と。
いや、優しい彼はそんなことしないかもしれない。
それでも、あの悲しそうな顔だけでも私の心を抉るには十分すぎた。
駆けて、駆けて、駆けて…
気がつけば城下町まで出てきてしまっていた。
町は私を嘲笑うかのように賑やかで、生き生きと輝いていた。
そんな町を突っ切って、一人になるときによく来ている廃寺に来た。
其処には部屋が幾つかある上に隠れ通路があって、昔は青峰殿や黄瀬殿、兄様、姉様とよく遊んだ場所だ。
其処の秘密の通路を進んだ一室で一人ぼんやりしよう。
そう思っていた私の目論見はあっけなく崩れ去る。
「虹村の姫の祝言が三日後らしい。」
「そこでその姫を高尾の仕業に見せかけて殺せば、虹村と高尾を仲違いさせることができる。」
「そしたらそこを一気に囲い込めば…」
「我らが主が高尾と虹村の領土を」
はっはっは、と盛大な笑い声が聞こえた。
今いる通路の上にある、恐らく一番奥の部屋ではどうやら密会がなされていたらしい。
密会だが、人目につかない廃寺だと侮ってかなりの声で喋っているからその内容は一字一句漏らさず聞き取る事が出来た。
はやる気持ちを抑え、念のため黒子殿から教わった気配の消し方で極限まで自身の気配を最大限消して通路で息を潜めた。
やがて、声が聞こえなくなり、上の部屋の気配も消えた。
私が通路から出てみると既に日は傾き始めていた。
その夕日をぼんやりと見た。
このまま行けば、姉様は死んでしまう。
そうしたら、今度はあんな顔ではすまされないかもしれない。
そんなの見たくない。
そう思うと同時に、一つの妙策が頭に浮かんだ。
ーーーーー
「殿っ!!殿っ!!」
滅多な事では声を荒げないテツが声を荒げ、息を切らして飛び込んで来たのは、俺たちが何故か紛失したさつきの白無垢探しに駆り出されている時だった。
「この者がっ…」
テツが連れて来たのは名前の侍女だった。
肩が震え、いく筋もの涙を流して、手に何やら書かれた紙を握っている。
「名前様をっ、名前様をお助け下さいっ」
その場にいたさつきや黄瀬、殿様になった修造さんの動きが止まった。
「は、なんで…」
「名前様がっ、名前様がっ、殺されてしまいますっ」
泣きながら必死で叫ぶ彼女の手からテツが紙を取り、修造さんに渡した。
「高尾様のお城に着く前にさつき様を斬殺する計画があったようで、それをお知りになった名前様がさつき様の白無垢を来て、迎えに来たお輿に乗ったようなのです」
頭を何か硬い物で殴られたような気がした。
「どうかっ、どうかっ名前様をっ」
うわああ、と侍女が泣き崩れた。
それと俺の身体が動いたのは同時だった。
愛用の槍を引っ掴み、馬小屋へと駆け出そうとした。
「待て!!」
鋭い声静止の声に気を取られた瞬間、火神が俺の前に立ち塞がった。
「どけ、火神」
唸るように言ったが、奴はピクリともしない。
舌打ちを一つして、向きを変えたがいつの間にか俺は囲まれていたようで、緑間、紫原、赤司が俺を囲うように立っていた。
「んだよてめぇら、邪魔すんな!!俺はっ」
「ざけんなっ!!」
鈍い音がして、頬に衝撃が走った次の瞬間には俺は地面に転がっていた。
「俺らだって行きてぇんだよっ!!」
頭上で火神が叫んだ。
その肩も、やはり震えている。
確か、こいつと名前は仲が良かった気がする。
「青峰、今行っては敵の思うツボだ。あの細い道で囲まれてしまえば打つ手はない」
赤司の冷静な声が飛ぶ。
「名前姫はお前とさつき姫を、この国の皆を守るためにいったのだよ」
緑間の目ががまっすぐ青峰を射抜く。
「はい、これ」
紫原が俺に何かを差し出す。
受け取ってみればそれは書状で綺麗な筆跡で「青峰大輝殿」と書かれていた。
広げてみれば、中に書かれていたのは立った数行。
「青峰大輝殿
今まで剣の御指南、ありがとうございました。私は武家の女子らしく誇りを持って死にたかった。それが叶えられて、私は幸せです。沢山の思い出をありがとうございました。姉様とお幸せに。名前」
違う。
違う。
俺が好きなのは、お前なんだよ。
さつきじゃなくて、お前なんだよ。
何故それを伝えてやる事ができなかったか。
何故あの細い腕で精一杯向かっていくあいつを守ってやれなかったか。
何故…
何故…
後悔と自責と悔しさと悲しさを込めた叫びが城に響いた。
桜が、綺麗に散った。
ーーーー
間一髪で急所を避けたものの、左肩を鉄が切り裂いて痛みに顔を歪めた。
懐に忍ばせていた短刀を構え直す。
死ぬ事が、少し怖いと思った。
けれど、もしここで死ななければ大切な人達を危険に晒すかもしれない。
それならば、死ぬまでだ。
あの書状に書いた事は本当なのだから…
目の前の男に蹴りを食らわせ、すかさず短刀で胸元を貫く。
その刀を奪い取って背後の男を斬りつけた。
真っ白な白無垢に真っ赤な血が飛び散った。
その血はもはや自分のものか、相手のものか分からない。
「何を女子相手に手こずっておる!!囲い込んでしまえっ」
どこぞの武将が叫んでいるのが聞こえる。
私とて何度も戦場に出てきた。
七人衆には勝てないが、そこそこの手練れではあったと自負している。
ずきりと疼く左腕を無視して刀を握る。
こうなれば、虹村に敵対する者を一人でも斬り殺してあの世へ行くまでだ。
目の前の男の首を飛ばし、返す刀でもう一人を切った時、背中に熱が走った。
ああ、切られたんだと悟るのにそう時間はかからなかった。
それでも、なんとか足を踏ん張って振り返り自身を切った男の心臓を貫く。
あれだけ真っ白だった白無垢は真っ赤に染まっていた。
もう、終わりだ。
膝から地面に崩れ落ちる。
「名前」
愛しい彼の声が聞こえた気がした。
私にとどめを刺そうと見知らぬ男が刀を振り上げた。
死ぬのだと、私は諦めて襲いくる瞬間を受け入れる為目を閉じた。
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