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君がいた春はいつまでも青いままです





『拝啓 青峰大輝様

真っ白い雪が降る今日この頃、だい寒くなって参りましたが、いかがお過ごしでしょうか。』

手紙はいつも丁寧な季節の挨拶で始まる。

時には小難しい言葉を並べて俺の知能度を試そうとしてるんじゃねえかって思った事もある。

けれど、毎回変わらない為かもう慣れてしまった。

『高校での生活はどうですか?私自身、今年は高校生活に慣れるので精一杯でした。勉強は難しいし、まだ友達と呼べる人も同じ部活の人くらいです。』

あー、あいつ人見知りだったしなとぼんやり思い出す。

思えば小1の時も、中学上がってからも、あいつは極度の人見知りでさつきか俺にくっついていた。

さつきとは違い素直に「ありがとう」ってはにかむあいつには可愛げがあって、俺はかなり甘やかしていた気がする。

『あ、でも下宿先のおじさん、おばさんとはだいぶ仲良くなれました。二人とも私にとても良くしてくれます。おばさんのご飯はとても美味しいです。』

俺はお前の飯の方が美味いと思う、なんて柄にもなく思った。

その『おばさん』とやらの飯は一口も食ったことがねえが、あいつの飯は世界一美味いと思っている。

その能力を10分の1でいいからさつきに分けてやれ、と思う。

『大輝はちゃんと勉強していますか?課題をさつきに映させて貰ってばかりではダメですよ。少しでも自力でできるよう頑張ってください。』

くそっ、何だよ。

毎回母親みてえなこと言いやがって…

つか、俺がお前のこと守ってやってたんだぞ。

俺に向かって偉そうなこと言うなよ。

『そう言えばさつきは元気ですか?そうそうこの前町でばったり赤司くんに会いました。相変わらず、ちょっと怖かったです。でも笑顔で話しかけてくれました。』

そーいや、赤司も京都行ったんだったか。

あいつ、昔から赤司のこと怖ぇって言ってたな。

つか、赤司の奴、狙ってあいつと同じ県行ったんじゃねぇだろうな。

『赤司くんとは学校は違います。でも学校同士は近いです。と言うか、私は女子校だから。因みに京都は府です。』

なんだよ。

県でも府でもどっちでもいーじゃねーか。

そもそも、なんで俺がそー考えること知ってんだよ。

『なんで俺の考えてる事が分かるんだって思っているでしょう?分かるよ、大輝のことだもの。』

くそっ…

んだよ、ホント。

今、近くにいねぇくせに…

なんで、分かんだよ。

人見知りのくせに、頭は良くて、飯が上手くて、面倒見がよくて、俺のことよく見てて、俺より大人で…

そーゆーとこが昔から…

『ずっと一番近くで見てきたもの』

好きで、嫌いだ。



『まだまだ寒さが続くようです。お体に気をつけてお過ごしください。敬具

P.Sウィンターカップ、ご健闘をお祈り致します。』

最後まで読んで俺は手紙をゴミ箱へ投げ捨てた。

あいつから手紙が来るのは毎月のことだからこれで九回目。

絶縁中だと思っているのはどうやら俺だけのようだが、あいつも返事がないことぐらい計算して送っているのだろう。

中学最後の全中で、俺は始めてあいつを怒らせた。

何でだったかはよく覚えていない。

けれど、それが理由の一つとなりあいつは東京から出て今は京都で下宿して高校に通っているらしい。

ベッドに横になって、目を閉じた。

目に涙を溜めて両の手をグッと握りしめ、血が滲むほど形の良い唇を噛んでいたあいつが、瞼の裏にまだハッキリと浮かんでくる。


「くそっ」

悪態が一つエアコンをつけたばかりの寒い部屋に消えた。

窓の外を見ると、雪が降っていた。

あー、明日も寒ぃだろうなぁ。

そう思って空を見上げた。

その色は、二人で見ていたあの頃と違い重くどんよりとした灰色だった。

「くそっ」

再び悪態が零れる。

ウィンターカップが、あと一週間で始まる。


「頑張ってね」

ふと、そんな声が聞こえた気がした。

なあ、名前…

やっぱり、バスケなんかつまんねぇ

俺に勝てるのは俺だけだ。

けど…




お前がいなきゃ、色がねえんだよ。

「帰って、こいよ…」

柄にもなく、一言吐き出して再び目を閉じる。

其処には、俺があいつに一番似合うと思っている季節の青い空の下、優しく微笑むあいつがいた。

ああ、あいつといた日々はあんなにも青かったのか。

自嘲の笑みが一つ、乾いたエアコンの空気の中に消えた。

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