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あなたの未来を盗みに来ました

捏造あり

桜が散る三月。
一本の花を胸に挿して、片手に卒業証書を持った私は今日、この学校を卒業する。

「名前」

呼ばれて振り返れば、ダルそうな彼が居た。

「さつきは?」

「友達と写真撮ってる」

お前は撮らねぇの?と聞かれて、ちょっと寂しくなった。

「あんた達以外に友達と言える友達いないからね。」

「ふーん」

さみしーやつ、と言いながら興味なさげに私の隣に来た彼も黙って桜の木を見上げた。

「大輝進路は?」

「バスケ推薦で桐皇」

「ほー」

「おめーは?」

「桐皇の芸能科」

んだよ、また一緒かと呟く大輝。
その言葉に少し、いやかなり心が抉られた。

「悪いけど、さつきはともかく私これまでみたいにはあんたと関われないよ。」

口から出たのは可愛くない言葉。
未来のアイドルなんて、所詮はこんなものだ。

「あたし、四月になったらデビューするから」

「おー、おめっとさん」

「どうも。てか開始早々黄瀬くんと仕事とか」

黄瀬くんが私ならやるとごねた雑誌の撮影のおかげでそれまで実力で単体デビューを勝ち取ろうとしていた私はちょっとした話題に。
前から事務所には所属していたものの、その事務所のプロデュースするアイドルグループの新メンバーとしてデビューすることになった。

「御愁傷様」

「本当よ」

ため息をついて、遠くに行く幼馴染に何か言葉は?なんて聞いたら

「堀北マイちゃんの生写真とってこい」
なんて言うから持っていた証書でその頭を叩いてやろうとしたら避けられた。
くそ。

「じゃ、そろそろ事務所行かなきゃね」

桜を見ていた視線を、無駄に背の高い幼馴染に向けて

「ありがとう」

ずっと言いたかった言葉を最後に言った。
きっとこの幼馴染と二人で居られるのは今日が最後だから。
最後の最後。
本当は言おうと思っていた言葉がもう一つある。
けれど、デビューする時にそれは捨てる事を決めたから。
キュッと唇を引き結んで、笑顔を作った。
未来のアイドルの渾身の演技と笑顔。
そんなものをただの巨乳バスケ馬鹿に見せてやったのだから、いつか必ず何かしらの形で請求してやる。

「じゃあね」

歩き出そうとしたら、待てよと襟首を掴まれたから、一瞬マジで首がしまった。

「けほっ、ちょっと、あたしこれから一応アイドルになるんですけど?」

「知るか。その前に」

てめぇ、もう一つ言う事あんだろ。

そんな言葉が大輝の口から出てくるとは微塵も思って居なくて、ぽかんと口を開けてしまった。

「お前がいくら有名になろーが、知らねえ。つか、俺もバスケじゃこれからのお前並に有名だし」

「うわ、自分で言った」

違うよ、本当はこんなことじゃなくて…

「けど、お前まだデビューもなんもしてねぇじゃねえか」

彼の鋭い、紺色の目が私を射抜く。

ああ、この人はいつから、こんな大人になったのか?


「だから、お前はまだアイドル目指してるただの女子中学生だろ」


最悪だ。
こんな馬鹿にこんな心臓バクバクするなんて、最悪だ。

「大輝」

もし、これでこっぴどく降られたとしても、好きになったことくらい、優しい彼は許してくれる筈だ。
また、幼馴染としてさつきと私と三人でどっか遊びに行くくらいはしてくれるでしょう?
つか、アイドルに告白させるなんて、どんだけ生意気。

「好きだよ」

少しでも余裕があるところを見せたくて、

「振ったら承知しないよ」

と言ってみせる。

手が震えるのが分かる。
心臓が、うるさい。
顔に熱が集まる。

彼が近づいてくる。
ああ、いつの間にこんなかっこよくなったのだろう?

「やっと言ったか、遅えよバカ」


ぎゅうっと、私を抱きしめた。

「はっ、ちょっ、何?」

「つか、俺はだいぶ前に言ったぞ」

なんて言われるから、はっ?なんて素っ頓狂な声も出てしまうわけで。

「好きだって、幼稚園の卒園式」

「はあ?」

確かに朧げな記憶はある。
けれど、この巨乳とバスケ以外は三歩歩いたら忘れる鶏の大輝が覚えているわけないと思っていた。

「何よ、それっ!!ズルいじゃない!!」

「はっ?ズルくねえし」

それでもズルいズルいと腕の中で喚けば

「好きだ」

なんてボソリと言うから、涙が出てきた。

「好きよ、バカ」

それを隠すようにもう一度、彼をぎゅって抱きしめた。

ふわりと風が吹いて、桜が舞う。

それはまるで私達を祝福するかのように、私達の上に降り注いだ。





それから、十年の季節が巡った。


「私、苗字名前は」

沢山の名前の書かれた内輪やペンライトが見える。
隣では、何を言うのだろうと仲間達が私を見る。
とてもさみしいけれどそれらとはもう、さようならだ。

「本日のツアーを持ちまして、このグループを、芸能界を卒業します」

きゃーとかわーとか様々な声が聞こえる中、客席の中にいる幼馴染を見ると、泣きそうな顔で笑ってくれた。

「本当にこの十年間、苦しいこと辛いことありましたが、ここにいるメンバーのみんなと、卒業したメンバーのみんなと、マネージャーさん達と、そしてずっと応援し続けてくれたファンの皆さんが居てくれたから、とても楽しかったし、幸せでした。本当にありがとうございました」

頭を上げて彼女の隣を見たら、ニヤリと笑う彼が見えた。

こっちは泣きそうなのに余裕そうな彼に、少しムカついて。




あなたの未来を盗みに来ました。





「私は来月、NBAバスケ選手の青峰大輝と結婚いたします。」

あなたの未来、いただきます。




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