純白な君を染めていいのは俺だけ



「それで、それでその子ったら」

隣で楽しそうに自分の友達の話をする彼女の話を聞く。

彼女は本当に喋るのが好きだ。

自分のこと、最近飼いはじめた猫のこと、部活のこと、友達のこと…

大体はしょうもない話でしかないのだが、凄く楽しそうに喋る。

その表情からは、その笑顔が作られたものや計算ではないことが一目で分かる

彼女はバカがつくほど正直で、思いやりがあって、誰にでも優しくて、裏表がないから。

「あっ」

「ん、どーしたっすか?」

「ごめんなさい、またあたし勝手に一人で喋っちゃって…」



だからこんな仕草だって勿論計算されたものではなく、素直に彼女から出てしまうもの。

醜い世界など一切知らない…

そんな綺麗な世界しか知らない、幼くてけど綺麗になりつつある一つ年下の名前が俺の好きな人。

彼女は部活のマネージャー。

前主将の虹村先輩が三軍で仕事をしていた彼女を見て、直々に一軍のマネージャーに指名したらしい。

ミスを全くしない訳ではないが、その一生懸命さや、正確な仕事が先輩の目に止まったんだと思う。

そう、ただ純粋で一生懸命だから、みんな彼女に惹かれるんだ。

かく言う俺もそんな彼女に惹かれている人物の一人。

くるくる変わる笑顔や仕事に一生懸命なところ、そして純粋な笑顔…

彼女の全てに惹かれたと言っても過言ではないくらい。

昔から俺は絶対に年上を好きになって、自分を甘やかしてくれたり、自分の話を聞いてくれる人を好きになると思ってたのに不思議なものだ。


「そんなことないっスよ。」

笑って彼女の頭を撫でる。

こんなことするのは彼女にだけなのに…

「俺、名前が喋ってるの聞くの、好きなんス。だから、もっと色々喋って」

こんな言葉だって彼女にしかかけないのに彼女は純粋すぎて気付いてくれない。

頬を染めて、はにかんで

「先輩って、本当優しいですね」

なんて言う。

俺が、そうっスか?って聞けば彼女はにこっと幼さの残る顔で笑って頷く。

違うよ。

普通の子だったら、適当にあしらうよ。

優しいのだって彼女限定。

この可愛くて美しい笑顔が見たいから、優しくするだけなんだ。

けど、そろそろね。


「名前だけっスよ。俺が優しいのは」

俺だって我慢限界。

君と、先に進んでみたいんだ。

もう何ヶ月も待った。

沢山アピールしたけど、彼女は少女漫画並に全然気がついてくれない。

だから…

頭の上にクエスチョンマークを浮かべている彼女の頭をくしゃりと撫でて


「名前、俺君に言いたいことがあるんス。俺…」


君が好きだ。



いくら純粋で鈍感な彼女でも流石にこの言葉を勘違いはしなくて、一瞬フリーズしたあと、その白い肌を桃色にかぁっと染めた。

「ふえっ…えっ…あの…そのっ…」

段々桃色から赤に変わる彼女が可愛くて、わたわたしている彼女が愛しくて、手を伸ばしてぎゅっと手に閉じ込めた。

「好き。本気っスよ。だから、俺と付き合って」

もう一度言うと、彼女は俺の腕の中で更にわたわたする。

そして

「えっと…あたし…こんな…ですけど…あたし…で、よかったら…それに…」

私も先輩のこと、好きです。


なんていつもからは想像できないくらいたどたどしく言うもんだから、そして彼女も俺と同じだと告白してくるから我慢できなくて…

彼女を腕から解放して、その真っ赤に染まった頬に手を添えた。

ゆっくりと顔を近づける。

ああ、今すっげー幸せだ。

想像以上に幸せだ。

普段雪のように白い肌をどんどん自分が赤く染めていくことが、こんなに幸せだとは思わなかった。

そして、桃色に色づいてぷっくりと膨らんだそこに優しく口付けをする。

純白で無垢な彼女。

これから先、何があっても



純白な君を染めていいのは俺だけ。



10年後
淡い黄色のウエディングドレスに包まれた彼女を見て思う。
ああ、純白だった彼女は純粋なまま俺に染まってくれたのだ、と…

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