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抱きしめた温もりを守るため

幕末パロ
というか薄桜鬼の世界に黒バスキャラを突っ込んだ感じ。
高尾ちゃんのやつとは別物ですが、やっぱり高尾ちゃんは監察。


お許しいただける方のみどうぞ…
※流血表現あり





ピシャリと紅い飛沫が彼の顔にかかった。
闇夜を白刃が一閃するたびに、一人、また一人と敵が倒れていく。


「ひっ、だっ、誰だ貴様っ!!」

怯えた浪士に名を問われ、

「新選組一番組組長補佐黄瀬涼太。死にたいならかかってきな」

彼は不敵に笑い、もう一度彼の刀が一閃し、最後の一人が倒れた。

「ちぇっ、手応えなさすぎっスねえ」

つまらなそうにそう呟いて、刀を一振りして血を払い、懐から取り出した懐紙で刀身を拭う。腑抜けた空気を漂わせるが、一瞬にして纏う空気が変わるのは下っ端といえどさすが新選組幹部だからだろう。

「お疲れ、りょーたくん」

その声を聞いた途端、黄瀬の空気はまた先程の腑抜けたものへと変わる。

「なんだ、高尾っちスか。驚かせないでほしいッス。」

「いやー、本当はもっと派手にイタズラしたかったんだけどねー」

舌を出して笑いながらも高尾の仕事は早い。手際良く死んだ浪士の懐に手を入れ、一つでも情報を得られるものがないかを探る。

「でも本気で斬りかかられたら困るしねー」

黄瀬の腕の良さは隊内でも有名だ。
上司である一番組組長の沖田と二人、笑顔で人を斬る姿が怖いと隊士たちの間で評判である。

だが、沖田と黄瀬では現時点で決定的差があった。

「まっ、とりあえずこいつらの後始末頼むっス」

それだけ告げて黄瀬は歩き出した。


屯所に着いて、自室に入り羽織を脱ぎ捨てた。

「あー、洗わなきゃっスねえ」

それは浪士の返り血で暗闇で見ても分かる程に汚れていた。この隊に黄瀬が入隊してまる二年。沢山の人間の命を奪い、沢山の人間を見送り、黄瀬はつい先日幹部になった。それはつまり、一番組の組長補佐がこの世を去ったということだ。

「俺も、いつか…」

黄瀬は右手を見た。
元々黄瀬に思想があったわけではない。尊皇と佐幕、どちらが正しいのか、攘夷が正しいのかなど黄瀬には分からなかった。ただ、強い人間と強い組織の中にいたい。それが黄瀬の願いだった。元々器用だった黄瀬はどの流派の剣道場へ行っても一年足らずで免許皆伝くらいにはなれてしまった。だから、探していたのだ。自分を燃えさせてくれるような、そんな強い相手がいる組織を…

そんな時に目に入ったのが新選組の隊士募集。面白半分で受けに行って、黄瀬は久し振りに完膚なきまでに叩きのめされた。そう、その相手は沖田である。
それから黄瀬は土方に志願して沖田の隊である一番組に所属するようになった。
沖田の荒っぽい稽古にも黄瀬は負けることなくついていった。
そして、腕だけではもう幹部の誰とでも対等に戦えるようになった。

けれど、黄瀬は怖かった。

自分が容易に殺されるとは思わない。が、剣をもっている限り剣をわが身に受けて倒れる可能性は極めて高い。
別に死ぬこと自体は怖くない。
だが、

「絶対、俺の為に死ぬっスよね」

彼が一言呟いたとき、襖が開いた。

「涼太さん?」

細い声が鼓膜をゆする。
それにひどく安心感を覚えた。

「名前、どうしたんスかこんな時間に?」

「目が冴えて、眠れなくなってしまって…。あの、羽織お預かりしましょうか?」

彼女は新選組で住み込みの女中をしている名前だった。実は彼女、土方の実の妹である。幼い頃からあんな気質の兄を見て育ってきたからか普段は大人しいのだが、実はかなり芯の強い娘だ。なんでも姉と兄の反対を押し切り、土方の世話の為一人で今日に出てきた挙句、土方も丸め込んで新選組の女中をしているとか。そんな彼女と黄瀬の仲を知るのは今だ兄である土方だけであるが、もし万が一彼女を溺愛している組長たちに知られたあかつきには、黄瀬の命はないであろう。

「いや、また後で頼むっスよ」

黄瀬は羽織を脇に置いて名前に部屋の中に入るよう促す。
彼女は言われたとおり中に入ると再び襖を閉めた。

「名前」

黄瀬はそれを見届けて、彼女を抱きしめた。
温かい体温が黄瀬の心を埋めて行く。

そうだ、自分などどうなってもいい。けれど、彼女が泣くことだけは嫌だった。彼女が自分の後を追って死んでしまうのは嫌だった。

そう思った途端、黄瀬は刀を振るうのが怖くなった。自分の殺した人間を通して、誰か別の人間まで殺しているのではないか、と…
そして、彼女もいつかそんな風に死んでしまうのではないかと…


「ねえ、名前。もし、いつか俺が剣に倒れたとしても」


君は死なないで…


「涼太さん…」

腕の中の彼女はピクリと震えた。
黄瀬は抱きしめる腕に力を込める。

しばらくそうして二人抱き合っていたが、

「い、やです。」



やがて彼女の口からそんな言葉が漏れた。
その言葉は黄瀬の予想した通りのものだった。

「私は、私の命は涼太さんと共にあります。貴方がいなくなったら、私は生きていけません。」

「名前…」

「ですから、貴方は必ず生きてください。私を、生かす為に…」

その言葉が黄瀬を貫いた。
そうだ、自分が死ぬことを心配するのではない。

なんとしても生き抜かなければならないのだ。


誰を殺しても…
自分の手を血に染めても…

彼女の命を背負って生きているのだかから。


「ほんっと、度胸があるっていうか、芯が通りすぎているというか。」

黄瀬は一度身体を離し、彼女を見つめた。

「分かったっス。けど、それなら俺の命も名前に預けるっス。名前が死んだら、俺も後を追う。だから俺を庇って死んだりしないで」

目を見て告げると、彼女はふわりと微笑んだ。

「涼太さんが私を守ってくださるなら、大丈夫です。」

そうして今度は名前から黄瀬を抱きしめた。




抱きしめた温もりを守るため


俺は何としても生き続ける。
彼女と共に…





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