「ごめん、明日からあたしも父さんも出張なのよ」

「ごめんな」

顔の前で手を合わせるお母さんに、申し訳なさそうに謝るお父さん。

「いや、お仕事なんだからしょうがないよ。それに明日は土曜日だから…」

そこまで言ってハッとする。
そう、明日から所謂週末の休日。
ということは練習があるということ。
土曜日はいいが、日曜日は保育園があいていない。
だが、今週末にはどちらも練習が入っていた。
しかも一昨日まで期末テストであったため、土曜は確かそうでもないが、日曜の練習は相当ハードなはず。
そうなれば、マネージャーなしで練習するのはかなりしんどい。

「しょうが、ないよね…」

その言葉にそうだよと答えるように、離乳食を食べていた娘があえーとご機嫌そうな声をあげた。


「…というわけなんです」

と今朝のことを話すと顧問の武内先生は事情を知っている故、あっさりと了解をくれた。
実はこの人、母方の伯父だったりする。

「しかし、あいつらにはなんと言うんだ。」

「姉の子供とでも言っておきます」

嘘をつくのは心苦しい。
けれど、ばれてしまうのはもっと嫌だから。

「まあ、お前さんに似ているから大丈夫だとは思うが…」

先生は複雑な顔をした後、もうバスケはやらんのか、と聞いた。
思えば、私にバスケを教えてくれたのは先生もとい源おじさんだった。
その指導の甲斐あって、男子ほどでないにしろ、強豪の帝光中女子バスケ部でレギュラーを勝ち取れた。
だから、きっとさみしいのだと思う。
おじさんはいつも私に才能があるって言っていたから…

「体力が落ちましたから。高校の間は身体を戻しながらマネージャーをします」

そう言うと、おじさん、いや先生はそうか、と言った。

「お前が戻るのを楽しみにしているぞ」

笑ってそう言ってくれた。


「あの、笠松先輩」

練習後、キャプテンの笠松先輩を呼び止めて日曜日に娘を連れて行きたい旨を伝えると、監督が許可したなら、とこちらもあっさり許してくれた。

「ご迷惑おかけします。すみません。」

「いや、むしろお前のが大変だろ。悪いな」

「いえ、楽しくてやってるので。大丈夫です」

それじゃあお疲れ様でした、と頭を下げて部室へ向かう。
明日は娘の迎えがあるし、明後日娘が万が一練習中にぐずった場合を考えてできる準備はやらなければならない。
明日はそんなにハードな練習ではないからスクイズをいくつか持って帰ろう。
それから、明日のうちに氷を持ってきて体育部活用の冷凍庫に仕舞わなくては。
そろそろ部室の掃除もしなくてはならないし、ああ、インターハイの相手チームの分析もだ。
ああ、やることは山積みだ。
思わず一つため息をついて、インターハイ初戦の相手の資料をスクールバッグに詰め込んだ。



そして、日曜日。
離乳食を食べ、おむつを替えた娘はご機嫌にきゃっきゃっと笑っていた。
そんな娘を抱えあげ予めお腹に巻いていた抱っこ紐に足を通させ肩に紐をかけ、いつもより少なめにした荷物を持って家を出る。
普段は自転車だが、今日は抱っこ紐の都合もあり歩きだ。
気温も暑すぎず、寒すぎず。
絶好のお散歩日和だ。
その気候のためか、娘は今日もご機嫌だ。
もともと愚図るということのあんまりない子だから、正直とても助かっている。
夜泣きは一時ひどかったものの、最近はなくなりつつある。
とにかく、普通の一歳児より全然手のかからない娘。
母に聞いたところ、私も手がかからなかったらしいから私の血を多く受け継いだのかもしれない。
そんな彼女はつり革に興味津々と言った様子で手を伸ばしている。

それにしても休日の私服登校はありがたい。
休日まで制服登校が義務付けられていたら私は好奇の目に晒されていたことだろう。
別に老け顔ではないと思うのだけど、母の服を着ている私は20代前半に見えるらしい。
勿論それを言ったのは服の持ち主である母なのだが…
まあそんな母の言葉を信じてみたのだが、案外間違ってはいなかったようだ。
周囲からの視線は全くない。
安心して、窓の外を見ると青い空に一つだけ白い雲が浮いていた。




ソーダの青空とわたあめ



ちょっとわたあめみたいだなんて思ってしまう私は、紫の彼に似てしまったんだろうか。